第35話 クエストを探そう
加工術師の仕事を終え、明日は何しようかと考えている時、
「明日、一緒にクエストに行きませんか?」
と、彼に誘われ、それを受けた。確かに今まで彼の勇姿を見たのは緊急クエストの時くらいだった。王都襲撃の時は、見てる暇もなく、別行動していたし、魔波発信所の時はそんな状況ではなかった。だから、魔法剣士の彼の姿が見られると思うと、嬉しくなる。そのため、今日はいつもより早めに寝てしまったのは仕方ないことだろう。
――――翌日
ちゃんと私が言った通りに彼は起こしに来なかった。だが、その代わりに――
「別に私が起きてくるまで待つ必要は無いんじゃないか」
「良いじゃないですか! 魔波調理器で料理はいつも暖かいんですから!」
とても良い笑顔と明るい声で言われ、反論することができなかった。今回は早く起きたから良かったものの、私が遅かったらどうするつもりだったんだ? まぁ、彼の事だから待っているんだろうが。
「……次は私を待たないで先に食べてくれ」
「嫌です!」
なんとか彼を説得しようとしたが、結局無駄に終わってしまった。
朝食を終え、支度をし、外に出ようとする彼を止める。
「クエストを受けるなら魔石通信機でもできるだろう。わざわざ『金獅子亭』に行く必要はないぞ」
「そうですけど、なんでもかんでも魔石通信機で済ませるのはあまり良くないって思うんです。だから、一緒に『金獅子亭』に言ってクエストの確認をしましょう!」
「嫌だ! 極力人に会いたくない! 特にレオーラに! 彼女は、緊急時以外は抱きつこうとするから苦手なんだ!」
「なら俺がガードするんで、行きましょう!」
「嫌だ!」
その後、何度も言い合いになり、結局ギルドに行く事になってしまった。
――――
「いらっしゃ~い、ライルちゃん、セティちゃーん!」
「こんにちは、レオーラさん!」
『金獅子亭』に着くなり、彼女に見つかり、抱きつかれそうになる。そこを彼が間に入り、代わりに受け止めてくれた。
「もしかして、明日の食事会について相談に来たの?」
「違います。今日は、ライルさんとクエストしに来ました!」
「まぁまぁ! 『勇気の雫』の初クエストって訳ね!」
どうやら、彼女は私達がパーティーの名前を知っているらしい。まぁ、当然か。登録したのはこのギルドだからな。――だが、出来る事ならそのにやにやとした顔はやめてくれないか。
「レオーラさん、一番ランクが高いクエストってありますか?」
「そうね……。あるにはあるんだけど、ライルちゃんとセティちゃんのランク差じゃ受けられないわね」
「ランク差?」
彼は不思議そうに小首をかしげた。どうやら、知らないようだ。というか、私も考えていなかった。確かに、ギルドに入ったばかりの私では、Sランクの冒険者である彼にとっての一番強いクエストを受ける事はできないだろう。
「私の今のランクはどれ位だ? 一番下のFか?」
「違うわ、Cよ。ほら、王都襲撃の際、魔波発信所を守ってくれたでしょ? その功績でランクが上がってCになっているのよ」
「そうだったか。なら、Bランクの依頼で一番強いのを頼む」
「分かったわ、今見繕ってくるわね」
そう言って、クエストの紙が貼られたボードへ向かっていく。というか、それは受付の役目じゃないのか? という疑問は飲み込んだ。
「えっと、ライルさん。ランクについては分かるんですが、ランク差でクエストが受けられないってどういうことですか?」
「君、ギルドの規約は見ていないのか? 書いてあったと思うんだが」
「難しくて、飛ばして読んでました」
君らしいというか、なんとういうか。分かりやすく、彼に説明をするか。
「私のランクがCなのは聞こえただろう」
「あ、はい。レオーラさん言ってましたね」
「で、君のランクはSだ。この場合に強いとされるのはSかAのクエストだろう。だが私はCだから、C以下のモノしか受けられない。なぜなら、規則で冒険者は自分の力量に会わない依頼を受けることが出来ない。だが、君のような強い冒険者一緒ならば、一段上の依頼を受けることができる。だから、彼女にBランクで強いのを探してもらったという訳だ。
理解できたか?」
「えっと、なんとか。ずっとオススメの依頼をやってきてたんで、そういうの考えていませんでした」
「それは冒険者としてどうなんだ」
少し溜息をつくと丁度レオーラが依頼を持ってきた。
「これなんてどうかしら」
依頼内容は無難な内容のようだ。バルチェリア森林で異常な事が起こっているようだ。大きなモンスターは狂暴化し、弱いものは衰弱しているようだ。森林の植物は枯れ始め、雪が降っているようだ。まだ温暖な春の季節だというのに、確かにそれはおかしい。今回の依頼はその原因を調べることのようだ。これはBランクの依頼なのは不思議だが、まぁ私達には丁度良いかもしれない。……彼の戦う姿はあまり見られないだろうがな。
「君、これでいいか?」
「はい! 大丈夫です!」
「じゃ、転移装置で現地に直接送るわね」
「あぁ、頼む」
転移装置に乗り、バルチェリア森林に向かう。前回≪亡霊≫が来ていた所の為、少し不安があるが、彼が一緒なら大丈夫だろう。『勇気の雫』の初クエスト、か。不謹慎かもしれないが、心が躍っている。わざわざそれを口にはするつもりは無いがな。
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