第34話 加工術の仕事

「確か、魔石通信機で仕事の依頼を受ける事が出来るんでしたよね」

「あぁ。国に結界を張ったり、大型の転移装置をどこかに設置する場合等は現場に行かなくてならないが、それ以外は家でも依頼品の受け渡しも可能だ」


 まず、魔石通信機から加工術師協会のサイトへ行って、IDとパスワードを打ってログインする。そして、メニューから依頼リストに飛ぶ。期日が近いモノをチェックしていく。決定を押すと、魔石通信機に繋がった小型の転移装置から依頼品が現れる。今回選んだのは、鍋や小箱などの小物ばかりだ。


「武器とかは無いんですね」

「今回は日用品が多いみたいだ。まぁ、武器に関する依頼は少ないからな」


 下積み時代は大量生産品の全てに加工術を施す事もあったが、今はそういうのはもうしていない。

 というか本当は、書籍の印税で生きていける程稼いでいるから、本当は加工術師の仕事はしなくてもいい。だが、仕事をしていないと自分の価値が分からくなってしまう。だから、私は加工術師として働いている。

 それに加工術自体は好きだから、別に苦ではない。


「優秀な加工術師は高額な依頼料を出さないと受けないって聞いたことがあるんですが、ライルさんは違うんですか? 今回の依頼は普通の小物で高価なモノは一つも無いから、全て一般の者達からの依頼ですよね」

「あぁ、そうだ。前も言ったが、金に興味はないんだ。生きるのに必要なのと、趣味の為の金があればそれでいいんだ。

 そもそも、私は人間が嫌いだと知っていると思うが、その中で金持ちで思い上がった奴等が一番嫌いなんだ。

 別に依頼を受けない訳ではないんだが、やれ専属の加工術師になれ、愛人になれとうるさくてな」

「愛人っ!? って、女の人からで――」

「男女問わず、だ」

「!?」


  顔は仮面で隠れているが、華奢な体のせいでそう言われることが何度もあった。男に告白された事も何度もある。

 そのため、私がこの体に劣等感を抱いているのは当然のことだろう。


「誰ですか、ライルさんにそんな事を言った奴等は。任せてください、名前を教えてもらえれば俺がそいつ等を始末しますよ」


「笑顔で言うな、この馬鹿者!

 そんな事より、今日は私の加工術の仕事を見に来たんだろう!」


 そういうと、彼はハッとした顔になって構えていた剣を鞘にしまった。瞳にハイライトが無く、抑揚が無い声で言うから少し怖かった。


 加工術師協会からログアウトし、魔石通信機の電源を切る。そして、作業机に移動し依頼品と依頼の内容を印刷した紙を置く。さっきまで知らない奴を殺そうとしていた彼は、私の隣で机に顔を近づけている。少年のように瞳を輝かせ、私の加工術を今か今かと待っているようだ。とりあえず、立ちながらは辛いだろうから、椅子に座らせた。


「――まずは、この鍋からにしよう」


 はじめに普通の鍋を手にする。依頼内容は、鍋を焦げ付かないようにしてほしいという、よくあるモノだった。何度も行っている事だから、滑らかに加工ペンで記していく。鍋の底と裏面に記号を施す。これで、どんなに強火でやっていても焦げることは無くなる。これで依頼の一つは完了だ。


「と、こんな感じだが、見てて楽しいか?」

「はい、とっても!」


 さっきよりも輝きが増した笑顔で言われ、少しむず痒い。とりあえず、そんな彼に見られながら、小箱の容量を増やす記号

や、包丁の切れ味をよくする記号を施したりなどして、今日の仕事を完了させていった。

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