第33話 君とご飯を

「ライルさん! おはようございます!」

「……必要な事以外関わるなと言ったはずだが?」

「すみません! 実は、早く目が覚めたんで朝ご飯作ったんです。ライルさんにはぜひ美味しいうちに食べてほしいと思ったので起こしてしまいました。

 迷惑だったらすみません。でも! やっぱり規則正しい生活をしてほしいって思ったんです。嫌ならもうしないので、その場合は言ってください」


 頭を下げ、申し訳なさそうながらも、真剣な顔で言われる。どうやら、本心からの言葉のようだ。仕方ない。


「分かった。せっかくの朝食が冷めたら勿体ないからな。今日は食べるよ。

 だが、次からはわざわざ起こさないでくれ。作ったものは魔波調理器で温めるからそれでいいだろ」

「で、でも誰かと一緒に食べた方が美味しいですよ? 俺はライルさんと一緒に食べたいんです!」

「確かにそうかもしれないが、私は人と関わるのは嫌いなんだ。二度目だが、必要な事以外で私に関わらないでくれ。分かったな?」


「うぅ……これは手強い」


 うなだれ、何か言ったようだが、聞こえなかった。


「聞こえなかったんだが、今なんて言ったんだ?」

「秘密です!」


 少し怒ったような声色で言い、彼は部屋を去っていた。何か怒らせるような事をしたようだが、まぁいいだろう。場合によっては、自分から関わってくる事も無くなるかもしれない。それなら好都合だ。




 今日の朝食はハムと卵、葉野菜のサラダにスープだった。いつもと変わらない料理だったが、ドールが作ってくれるモノよりも、数倍美味しく感じた。彼の料理はまだ二回目だが、結構気に入っている。――これでは離れがたくなるのではないだろうか? そんな疑問が頭を過ったが、まぁ護衛としてしばらく居てくれるんだ。それ位はいいだろう。

 それに、料理を作ってもらってばかりでは、彼に悪いだろう。


「何か欲しいモノはあるか?」

「え、欲しいモノ、ですか? ライルさんの加工術が施されたモノならなんだって欲しいですよ。でも、急にどうしたんですか?」

「いや、最近君にはしてもらってばかりだから、何か返しておかないと気が済まなくてな。そうじゃないと、平等じゃないだろう?」

「それなら大丈夫です! 俺は好きでやっているんで!」

「それでもだ」

「う~ん……。

 俺にとしては、これからライルさんの仕事を見るのと、新調した武器に加工術を施してもらうんで、それで十分ですよ」


 確かにそれで彼は十分だろうが、彼の労働に対する対価としては不足している気がする。


「そうだ。昨日あげたアメジストに加工術を施そう。それでどうだ?」

「そ、そこまでもらえませんよ! 今まで様々なモノや事を貰ったんです。これじゃ俺が足りません!」


「じゃあ、これから毎日料理を作ってもらう報酬としてならどうだ?」

「えっ!? プロポーズですか!?」

「違う。君、彼女に毒されているんじゃないか?

 ただ君の料理が気に入った、ただそれだけだ

――というか、プロポーズだったらどうするつもりだったんだ」

「普通に受けますが何か?」


 瞬時に、真顔でさも当然かのように言われた。いや何故そうなる。私に憧れているのは分かるが、何故プロポーズを受けることができるのか分からない。


「というか、君が私に向ける感情は憧れなんだよな?」

「はい、そうです!」

「なら、恋愛感情ではないんだよな?」

「えっと、多分」

「多分なのか。

 あのな、結婚とは恋愛感情で好きな人とするものなんだぞ。別に男同士が駄目という訳ではない。冗談でも、そういう事を言うんじゃない」

「冗談じゃないですよ。確かに、俺はまだ恋愛とかそういうのは分かりません。

 でも、ライルさんと一緒に居られるなら俺はなんだって構わないんです」 


 彼の表情から、その言葉は本当だという事は分かる。きっと私の為なら命も懸けるだろう。だが、


「なぜ君は私に対してそこまでできるんだ。君は私の加工術が好きなんだろう。私本人にそんな魅力など何もない、なのに何故だ?」

「そんな事ありません! そもそも、俺はライルさんの事だって好きなんです! あ、憧れの意味でですよ?

 加工術ってその人の性格によって違うんです。ライルさんの加工術はとても綺麗で、とても惹かれました。きっと、それは作った人の心もそれと同じ位に綺麗だから、そう思ったんです。

 そんなあなただから、俺は憧れた。会って、側に居たいと思うようになったんだ。

 あなた自身は分からなくても構いません。ただ、あなたの為なら、俺はなんだって出来ます。それだけは理解してください」


 もし本当に嫌なら、いつでもあなたから離れます。


 そう言って、笑顔で彼は私にいった。いつもの笑顔よりも大人びた、そんな笑顔だった。なぜかそれが少し胸を締め付けられるような気分になる。いつも私は関わりたくないと言っているが、本当は心の何処かで離れがたくなっているのでは無いだろうか。

そんな不安が頭を過った。

――いや、そんな事はない。彼は私の魔法剣士なんだ。そうである間は、彼と離れる事はない。だが、彼と仲良くなるつもりはない。だから、平等で対等な関係であるべきだ。


「……君が何と言っても、アメジストに加工術を施すからな」

「えぇ~、ライルさん頭固いですよ!」

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