第31話 また二人で話し合い
食事を終え、食器洗いをドールに頼もうとすると、彼が自分からやると言って聞かなかったので、しょうがないので頼んだ。
食べ過ぎたせいで動けない。居間のテーブルにしばらく座りながら今日の予定を考えていた。
今日は流石に加工術師の仕事を休もうと思う。期日はまだ長かったし、完全に本調子という訳ではないからな。
読書か、サイト巡りをして時間を潰そうか考えていると、食器洗いを終えた彼に話しかけられた。――なんか前もこんな事があったような気がするが、私の気のせいだろうか。
「あの、ライルさん。≪亡霊≫っていう組織を知ってますか?」
「いきなりなんだ、すぐ考えたような名前の組織は……。知ったことも、見たこともないと思うぞ」
「いや、見たことはありますよ。俺も、ライルさんも」
「?」
そう言って、私が居ない間にあった事を話してくれた。
謎の黒い球に、シャドーマン。そして≪亡霊≫と集団のリーダーと名乗る男か……。それも私に用があったと。だから、私は連れ去られそうになったんだな。だがまぁ、それよりも少し気になることがある。
「――少しいいかね」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「シャドーマンって安直じゃないか? 前から思っていたんだが、もしかして君、ネーミングセンスが無いのでは……」
「そ、そんな事ないですよ!」
だが、人を越えた身体能力と、魔術を使っても大丈夫な魔力と頑丈な体か。そんな敵が何人も襲い掛かってきたら、彼でも危ないかもしれない。
だが、魔波発信所であったあの二人はその力を使わなかったな。使わなくても勝てる自信があったのか、それとも強大な力な為、それ相応の代償があるのかもしれない。
「で、これがその魔力を吸収したアメジストか……」
「返そうと思っていたんですが、中々いいタイミングがなくて渡せてなかったんです。ずっと返していなくてすみません! ライルさんに手渡されたモノは全部返しますね!」
「いや、このアメジストと加工術は君にあげよう。また手強い敵が出るかもしれないからな。
その前に、このアメジストを浄化しておかないとな。黒い魔力を吸収したモノなんか、迂闊に使えない。少し待っててくれ」
そして、すぐさま浄化の加工術を工房のキャビネットの引出しから取り、それを使う。浄化が終わり、その石を彼に渡す。
「で、でも本当いんですか? これ、とっても魔力を吸収する魔石じゃないですか!」
「あぁ、別に構わない。そもそも、それは間違って買ってしまった石だから、君が使ってくれ」
そもそも、私はアメジストがあまり好きではない。紫という色が嫌いなんだ。つい買い物サイトで訳アリの魔力がある宝石のセットを買ったら、その中に入っていたおまけの原石の奴なんだ。使いたくないからしまっていたものだから、別に気にしないでくれ。
そう伝えると、目を瞬かせていた。
「紫が嫌いなんですね。俺は好きな色ですよ。だって、なんかカッコイイじゃないですか!」
「……君、もしかして知らないのか? 紫は悪魔の色とされている。だから、アメジストもその色から『悪魔の石』と呼ばれているんだ。どこがかっこいいのか、私には分からないな」
「え、そうだったんですか!? でも、悪魔ってなんかカッコイイ響きですね!」
「君の思考回路はどうなっているんだ。
というか、あの集団が≪亡霊≫と名乗った訳か。君と同じでネーミングセンスが無いな」
「そ、そんな事ないですよ! ≪亡霊≫っていう名前、カッコイイと思いますよ!」
もしかして、≪亡霊≫は君のような思考回路じゃないのか? と、思ったが言わなかった。
「それにしても、≪亡霊≫がぺリティカ王国を爆破しようとしたのは、何か恨みがあったのかもしれないな。」
「え、あんな平和な国にですか?」
「今はな。
ぺリティカ王国は、代々戦闘が大好きな人間が多いんだが、先代の王はその中で一番酷く、暴君と呼ばれていた。他国を侵略して、この世界の全てを自分の
先代によって流された血は多く、罪のない人間が何人も死んだ。多分≪亡霊≫は、滅ぼされた小国の中のその中の一つか、その国の人間が集まってできた組織なのかもしれないな」
話し終えると、彼は顔を真っ青にしていた。
「そ、そんな事今まで知りませんでした……」
「珍しいな。もしかして途中からぺリティカ王国に住み始めたか? この国に住んでいる者なら知らない奴は居ないはずなんだがな。」
「多分、あえて教えてもらえなかったじゃないかと思います。あの人、とても優しい人だから……」
親ではなくあの人呼びか。その言い方だと、親ではないのだろう。だが、流石にそこまで踏み入るのは彼に悪いだろう。
「じゃあ、≪亡霊≫の奴等ってその被害者達かもしれないんですよね。
国全体を爆破しようとしたのは許せない事ですが、できることなら話し合いたいと思いました」
「そうか。その気持ちは分からないでもない。
だが、まだ可能性だから、それは理解してくれ」
「でも、今はなんでこんなに平和なんですか?」
「やはり、気になるか。分かった、私が説明しよう。
先王は15年前までは即位していたが、突然の病死で崩御したんだ。そして、王が老いてできた10歳の殿下が即位した。
周りの狸爺どもは、殿下を操り人形にするため即位させたようだが、子どもながら聡明だった為、自分の味方である者達を近くに置き、狸爺どもを遠ざけた。だから、今代の王は自分の意思で国を治めているというわけだ。
それでも、周辺諸国は、ぺリティカ王国を警戒していてな。特に、ぺリティカ王国に戦争で負けた国には恨まれていた。そのせいで、和解するまでかなり時間がかかったんだ。まだ、恨んでいる国も存在しているようだが、なんとか前よりは平和な国になった。
言っておくが、同じ戦闘狂でも今代の王は国単位を巻き込んで戦争するような人間ではないからな。いちよ、そこを除けば優しい王ではあるんだ」
そもそも、強者と楽しみながら闘うのが好きなのであって、誰かの命を奪うのを良しとしない王だからな。
「で、何か質問や感想はあるか?」
「ライルさんって、――王様と友達なんですか?」
「そんな訳ないだろ。ただ、知人なだけだ」
どうなったらそんな勘違いができるのか、問いただしたいところだが、何とか抑えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます