第30話 セティの料理

「今度の食事会の予行練習みたいなものと思ってくださいね!」


 と言われ、居間のテーブルに座って彼の料理を待っている状態だ。暇なので、書斎から本を数冊持ってきて、読みながら彼を待つ。

 どうやら、料理の腕には自信があるようだ。張りきった顔をして袖を捲り、どこから出したのか、青いエプロンを付けて厨房へ入っていく。

 私のドールは人形の姿をしているものが多く、料理専用のドールも小さな人形のような見た目をしている。しかし、シンクやコンロは普通の人間用のサイズである。鍋などの重いモノを持たなくてはいけないこともある。

 だが、そこは魔力で動いているため、飛んだり、重いモノを軽々動かすことが可能である。だから、厨房は人間用に造られているため、何の問題もなく彼は料理をすることができる。

 だが、もし厨房がドール用のサイズになっていたら、彼はどうしていたのだろうか。まぁ、魔法でも使って大きくしていたかもしれないな。

 そんな事を思っている時に、ふと美味しそうな匂いが後ろからした。振り返ると、料理の入った皿を風魔法で浮かせている彼が立っていた。


「いや、ワゴンがあっただろう。なぜ魔法で持ってきたんだ。

 というか、皿が大きいのだが。」

「あ、あったんですね。何で運べばいいか分からなくて、つい。

 それと、安心してください。残したら俺が全部食べますから!」


 どこにあるか聞いてくれれば、それ位教えるんだがな。そう思いながら、本を収納魔法にしまい、テーブルの上を整える。そこに彼が料理が入った皿を置く。

 どうやら、コケッコのササミと白菜、ジャガイモ、ニンジンなどが沢山入ったスープだけのようだ。二つ皿はあるが、一つの量は一人分じゃないがな。


「スープだけなんだな」

「だって、ライルさん、病み上がりじゃないですか。その代わり、スープのお替りはたくさんありますからね!

 あ、固形物が飲み込みにくかったら、具は残して大丈夫です。栄養はスープにちゃんと入っているんで。

 ササミは食べられるって言っていたんで、筋をとってから火が通りにくい野菜とともに茹でました。

 口に合うといいんですが……」

「いや、流石に固形物は食べられるぞ」


 さっきは自信満々な顔をしていたが、今は少し不安そうにしている。とりあえず、食べてみなくては分からない。

 スプーンでスープを掬い、すする。少し熱いが、優しい味わいと、ササミと野菜の味わいが口の中に広がる。

 次はフォークでジャガイモを小さくしてから刺す。少し柔らかいが、刺しても問題はないようだ。スープの味とジャガイモが調和していてる。白菜やニンジンも本来の味が出ていてなかなか良い。

 そして、ササミだが、丁度いい柔らかさで、体の中に力が沸き上がるような気分になった。荒く揉み解してあるので、フォークではなくスプーンで掬いながら食べ進む。

 気付けば、皿の中のスープを全て飲み干していた。


「ど、どうでしたか?」

「……そうだな。とりあえず、おかわりを貰ってもいいか?」

「! 分かりました!」


 私の言葉にとても嬉しそうに皿を持って厨房に向かっていく。そこまで、喜ぶことだろうか。だが、まぁそうだな。これが美味しい料理というものなのだろうな。


 二人で食べた時も美味しく感じたが、今回もそこまで悪くない。なんて心の隅で思った。

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