第29話 これからの生活
医者に怒られた後、支度は終えていたので、真っすぐ家へ戻った。当然、私は転移石だ。彼は走って――のはずだが、着いたら目の前に彼が居たのは何故なんだ。
「君は本当に規格外だな」
「いやいや、ライルさん程じゃないですよ!」
「……いや何故そうなる」
優秀な加工術師だと周囲から言われ、自分でも一流の加工術師という事は自覚しているつもりだ。しかし、私が彼のような規格外の存在な訳がないだろう。
彼のように自身の力で敵を倒すなんて到底できない。いつも魔石と加工術だよりだ。どんなに素晴らしい加工術を作れても、使えなければ意味がない。そう伝えたら不思議な顔をされた。
「でも、俺は加工術を記すことはできませんし、強いって言われても、加工術がなければ魔法は使えませんよ。剣の腕だけじゃ勝てない敵だってたくさん居ます。俺の力は自分だけの力じゃなくて、加工術を施してくれる加工術師が居るから俺の力は引き出せるんじゃないかって思うんです。
それに、加工術はあなた自身が施したあなたの力です。俺は、そう思いますよ」
だから、魔石で発動したって、それはあなた自身の力じゃないですか。
いつものように明るく笑いながら彼は私にそう言った。
だが、私には魔力がない。魔力が無ければ意味がない。ずっと、あの人に言われ続けてきた。
『魔力の無いお前は、この家の人間ではない!』
魔力がない私に力なんて、意味なんてない。ないんだ……。
「ら、ライルさん。もしかして、嫌なことを言ってしまいましたか? 顔色が悪いですよ?」
「触るな!
……大丈夫だ。大声を出してすまない。気にしないでくれ。ただ、少し前の事を思い出しただけ、それだけだ。
そんなことより、ここが今日から君が暮らす小屋だ。小さいが、寝ることぐらいはできるだろう。」
彼は納得していないようだが、私が促したことにより目の前の小さな小屋に意識を移したようだ。もともと、物置用に建てられていたのだが、収納魔法がある為、全く何も置いていなかった。
「というか、本当にこんな小さな小屋で大丈夫か? 家に住まわせるつもりはないが、君の実力なら大邸宅に住める蓄えもあるだろう」
「だって、それじゃライルさんが居ないじゃないですか!」
いや、別に私と住める訳ではないんだが。
「でも、ライルさんと毎日会えるじゃないですか!」
私の側にいて何が楽しいんだ、この男は。
少し頭が痛いが、なんとか、小屋に気を逸らすことができたようだ。私の家族の事まで、彼に教える必要はない。私達は利用しあう関係、それでいい。――彼の方はそう思っていないようだが、それはどうでもいいことだ。
「それに、空間魔法を使って広げられるので、何の問題もありません!」
「それもそうか。」
それは考えていなかったな。本当は、狭さのあまりに彼が住むのを嫌がるのではないかと考えていたのだが、それは叶わないようだ。
「いいか。ここに住むのならば、必要な事以外で私に関わるな。 おい、思いっきり不満そうな顔をするんじゃない。嫌なら、出てってもらうぞ。……分かればそれでいい。
食事だが、自分の食事代を払ってくれるなら、自由にドールを使って食事をしていい。」
「じゃあ、一緒に食べられるんですか!」
「時間が合えばな。
言っておくが、私はあまり腹が空かない。今までは君に合わせて食べていたが、普段は一食に済ませることが多い。特に仕事の締め切りが近い日には食べない日だってある。
それに、私は夜更かしする為、朝食は遅い。というか、その日のはじめての食事が昼食なんてざらにある。だから、期待はするなよ」
そういうと、とても心配そうな顔をされたが、知らん。そもそも、あまり空腹を感じたことがないんだ、私は。
だが、そんな事を思っている時に、腹が鳴る。
「えっと、あまりお腹がすかないって……」
「丸一日寝てたんだ、仕方ないだろう!」
顔が少し熱いが気のせいだ。
早くドールに食事の支度をしてもらわなくては。そう思い、自分の家の扉を開けようとすると、彼がいきなり私の肩を掴んだ。
「な、なんだ急に」
「俺が――
俺がライルさんの食事を作ります!」
いや、なぜそうなるんだ! つい叫んでしまったが、これは仕方ないことだろう。
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