第26話 戦いの終点 セティ視点

 彼女に蹴られた腹が少し傷む。鉄位の硬度といっても、魔力を纏っていた。それに加え、ライルさんの加工術を発動させているので、普通の攻撃ではダメージを受けない。はずなのだが、ただの攻撃で防具を凹ませるとは。俺より力があるようだ。場合によっては、この剣も折られていただろう。しかし、彼女はライルさんのように魔力が無いようだ。レオーラさんの人間版と考えれば戦いやすいかもしれない。魔法の方はしっかり効いているようだから、魔法で重点的に倒していくことが先決だろう。


「君! 間違っても、後ろの機械に当てないように気を付けたまえ! 壊れたら、この建物が壊れるぞ!」

「は、はい!」


 あ、危ない危ない……。レーザーで敵もろとも吹っ飛ばすところだった……。ここは、慎重に魔法を操作して敵を倒さないと。

 波状の風の刃を彼女の周りに発生させる。それを全て避けようとするが、下から電流魔法が彼女に体に巻き付き、行動を縛る。必死に抵抗しているが、魔力の無い人間に魔法を解くことは不可能だ。動けなくなった所を風の刃が襲い掛かる。その全てが彼女に当たり、かなりのダメージを喰らわすことができた。膝をつき、悔しそうにこちらを睨む。しかしその瞬間、後ろにいたもう一人の敵が回復魔法を使い、彼女の傷を一瞬で治してしまった。

 また厄介な敵だ。後ろの敵は攻撃はしてこないようだ。だが、彼女? 彼? がいる限り、目の前の敵を倒すのは難しいだろう。どうやら、魔法攻撃があまり効かなくなる魔法も彼女にかけたようだ。

 これは、先に後ろを倒すべきだろうか? しかし、離れている間にライルさんに何かあったらどうするんだ? ふと、後ろに目をやる。だが、そこには誰も居なかった。


「!?」


 いつの間にか奪われたか? しかし、危険を知らせる魔石は光っていない。ということは、彼からどこか消えた? 一体、どこに?

 ふと、奥の方に目をやる。すると、後ろの敵は気絶しており、アイリスという名の敵の後ろにライルさんが居た。


「!」


 どうやら相手は気付き振り向くが、その前に黒い銃から弾丸を撃った後、封印魔法が施された魔石を使う。敵は魔石に吸収され、封印された。


「よし、終わったぞ」

「ら、ライルさん、なんでそこに居るんですか?」

「ん? あぁ、それはこれで移動したんだ」


 そう言って、彼が取り出したのは俺が渡した転移石だった。


「え、それって壊れてたんじゃ……」

「直しておくと言っただろう。割れた欠片の中から大きいのを選んで、また加工術を施したんだ。

 この転移石を空間魔法を使って向こう側に置き、気付かれないうちに黒ワンピースを気絶させたんだ。上手くいくか分からなかったが、なんとかなったようだな」

「もう! 後ろ見たら居なくて心臓が止まると思いましたよ! 次からはちゃんと何するか言ってくださいね!」

「いや、それは別に……分かった。次からは言うから、そんな不満そうな顔をするな。」

「分かってくれたなら、それでいいです!

 でも、ありがとうございます。もし、ライルさんが行動してくれなかったら、少し厳しかったかもしれません」

「そ、そうか。

 と、それより、早く爆破を止めなければならないな」


 俺の言葉に照れたのか、少し頬を染めたライルさん。だが、すぐに制御パネルの前に行こうとするので、彼の後を着いていく。

 目的地に着くと施されている加工術を慎重に消していく。どうやら、消してはいけない加工術も施されていると言われた。何が書いてあるのか俺には全く分からないが、ライルさんはどの記号がどの加工術か分かっているようだ。作業が終わると、ライルさんはふらついた


「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。さっきの攻撃と疲れが残っていたようだ。

 だが、まだ倒れる訳にはいかない。」


 そういうと、加工ペンを取り出し、何かの加工術を記していく。どこかで見たことがある術だが、それがどこだか思い出せない。最近見かけた気がするが、分からない。


「よし。君、ここに魔力を流してくれないか」

「あ、はい」


 そう言われ、加工術に魔力を流す。すると、大量に魔力が奪われる。


「! な、なんですか? 魔力が大量に奪われたんですけど?」

「これは修復と回復の魔法だ。王国に残したドールの映像では、もう敵が居なかった。だから、魔波を通じて、国全体にその二つの魔法をかけてもらった。爆破することが可能なら、その逆だって可能だと考えたんだ。こうした方が早いだろ」

「! た、確かにそうですね! でも、なんでさっきの爆破の加工術は時間が掛かったんですか?」

「あれは、自分の魔力じゃなく、魔石の大結晶で行おうとしたから時間がかかったんんだ。それに、爆破の加工術の方が難しいからな。」


 そういって、自分が書いた記号を消していく。綺麗に消した後、ライルさんはその場に倒れた。


「ライルさん!」


 読んでも返事をしない。脈を測ると、ちゃんと動いていた。どうやら、疲れて眠ってしまったらしい。全て終わるまで倒れないのは、ライルさんらしいと言えばらしいかもしれない。

 とりあえず、ライルさんを抱え建物の外に出ようとする。気付くと、黒いワンピースを着た子どもと奴等を封印していた石が見当たらない。気絶していた方はふりだったのか、途中で気付いたのか分からない。だが、気付かない内に、石を奪って逃げられてしまったようだ。建物内にも黒い連中は一人もいなかった。

 悔しいが、ぺリティカ王都、いや王国を無事に死守することができたから、それでいいだろう。


 それに、ライルさんが生きているなら、それでいい。背中に感じる彼の温度を感じながら、思った。

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