第25話 彼の為に

 彼とアイリスと呼ばれた敵は睨みあい、二人ともしばらく動かなかった。先に仕掛けたのは彼の方だった。

 風の記号に触れ、疾風のごとく間合いを詰め敵に斬りかかる。それを素手で受け、彼の腹に蹴りを放った。その衝撃で防具は凹み、後ろに下がる。だが、彼の攻撃はまだ終わっていなかった。発射されていた風魔法が敵を切り裂く。

 どうやら、アイリスと呼ばれた敵は魔法は使えないようだ。だが、青銅といっても、彼の剣を素手で掴んだ。鉄程度と言っても、加工術が施された防具を軽い蹴りで凹ませた。筋力は彼よりも上のようだ。

 その力自身が彼女の武器のようだ。まるでレオーラのようだが、あいつは獣化させて戦う。だが目の前の彼女はただの人間だ。普通に戦ったら彼は勝てるだろうが、今は時間がない。黒ワンピースが施した加工術が発動するにはまだ猶予があるが、戦っている間では間に合わない。彼に渡してもらった転移石は直った。成功するか分からない、一か八かだ。それでも。


 目の前で彼女の攻撃を剣で全て受け、私を守っている彼を見る。そんな彼の為に、国に生きる者達の為に、私はやらなければならない。

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