第23話 魔法使い


「やーっと来たみたいだね。この僕を待たせるなんて、良い御身分だよ」


 部屋の中には、10歳位の背をした、少年か少女か分からない、黒い服を着た人間が佇んでいた。目の前の人間は、フリルやレースをあしらった黒いワンピースを着ていた。だが、女装趣味があるのかもしれないから、服装で性別を決めることはできない。そいつの口ぶりから、私が来ることは分かっていたようだ。

 目の前の人間の言葉に何も答えず、魔石を制御するための機械へと向かおうとする。しかし、黒ワンピースの人間に阻まれる。


「ちょっと! この僕を無視しないでよ!」

「嫌に決まっているだろう。このままでは、この王都、いや王国全体が魔法の被害に遭ってしまう。

 私はそれを止めるためにここに来たんだ。お前の話を聞きにきたんじゃない」

「……その様子だと、僕らが何しようとしているか見当はついているようだね。

 そうだよ。きっと君が考えている通りの事だよ。

 僕らは、この魔波を使ってこの王国全領域を爆破させるつもりさ」


……やはりか。

 魔波は魔力を加工したものである。そのため、制御室から加工術をもとにした命令を行うと、その加工術に沿った魔法が魔波が漂っている場所に発動するようになっている。

 そのため、誰も入ってこないよう護衛をつけているのだが、上の人間は『魔波発信所』の危険性を分かっていない。だから、緊急時に護衛の者をここから離れさせたんだ。誰でも構わないというわけではないが、2、3人位は残すべきだったのではないだろうか。1人は倒れても、もう1人が救援要請を行うことが出来たはずだ。

 だが、その事態に気付いてここに来たのは私だけだ。後は、彼が来ればなんとかなりそうだが、今は私がなんとかしなくてはいけない。

 見た所、この人間は攻撃力が無さそうだ。その代わり、優秀な加工術師である事は間違いないだろう。この『魔波発信所』を、知らない人間が操作できるのは、加工術師くらいだ。それも、膨大な記号を覚えなくてはならない。だから、ここに居るということは、一流の加工術師ということだ。一番厄介なのは、それに加え使である場合だ。


 とりあえず、魔石を使って黒服人間に拘束魔法をかける。鎖が現れ、奴を縛り上げる。しかし、下から現れた火柱により鎖が焼け溶けてしまった。良く見ると、ワンピースに加工術が施されている。それに魔力を流して、拘束を解いたのだろう。


「やはり、魔法使いか……」

「気付くのが早いね。そうだよ。僕は使だ」


 魔法使いは、魔法戦士の中で加工術を用いる魔法の専門家のような人間である。それと同時に、加工術に長けているということは、その場で加工術を記し、戦う事も出来る。優秀であればある程、厄介な相手は居ない。

 私は魔石で発動させるが、わざわざ取り出さなくては戦えない。魔石嵌め込み型もあるが、石の魔力が無くなったら意味がない。しかし、魔法使いは違う。自分自身で魔力を流すため、取り出すラグが無い。それに、流す量を変えれば弱い魔法も強くすることが出来る。

 もう一つ、魔法の質にも影響を与えてしまう。一級品の魔石なら問題ないが、今持っているのに、一級品は少ない。魔法では、勝てないかもしれない。

 それならば、仕方ない。


「へぇ、魔法で僕に勝とうと? 魔力の無い君が?」

「それはやってみなくては分からないだろう」


 魔法銃を構え、後ろの機械に当たらないよう神経を尖らせる。銃から放たれた魔法は、火の剣、水の槍、風の矢、土の斧、雷の大槌となり敵に向かっていく


「そんな分かりやすい魔法、僕には当たらないよ!」


 そういうと、いつ出したか分からない杖から、光の大盾を出現させ防がれる。闇でつくられた蝙蝠の大群が押し寄せてくる。


 この時を待っていた。


 懐に忍ばせていたもう一つの黒い銃を出し、魔法と黒服の子どもに向かって数発撃つ。



「今更、何やってもむ……ぐはっ!」


 弾丸は、全ての蝙蝠を打ち消し、盾も障壁を砕いて敵の腹に命中した。心臓にも機械にも当たらなくて安堵する。



「な、なんで……」


 苦痛に顔を歪めるワンピース。なぜ攻撃が入ったのか不思議なようだ。奴に攻撃が入った要因は、私の武器が魔法銃だけだと勘違いしたことである。


「そ、その銃、反魔法銃アンチまほうじゅうか……」


 やっと気付いたようだ。反魔法銃は、その名の通りに魔法を打ち消す効果がある。私は、これを普通の銃としても使っている。貧弱な私でも扱える武器の1つだ。

 とりあえず、奴の服にかかっている加工術も今は消えているから拘束魔法をかけてから回復魔法をかけなくては。今度こそ拘束魔法を使うために、加工術を出す。




――しかし、後頭部に衝撃が走り、加工術を使う事ができなくなってしまった。視界はぼやけ、意識がぼんやりする。


『ライルさん!』


 ふと、頭の中に彼が思い浮かぶ。彼の言う通り、一緒にいれば良かったかもしれない。意識がはっきりしない頭でそんなことを思ってしまう。


「もぅ、遅いなぁ……。もう少しで僕もやばかったんだよ?

 すまない? そう思うなら、早く来てよね! 

 後、間違って殺してない? 殺したら、怒られるのは僕らなんだから、気を付けてよ! さて、早く彼を……ってなんか大きな音が――」



「ライルさんから離れろ」


 後方から、いつもより低い、さっきまで考えていた男の声が聞こえた。

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