第10話 強制的お泊り
「どうしてこんな事になったんだ」
ため息をつき、今の状況を憂いた。結局、家の方が良いと述べたら、英雄である彼が泊まることなった。彼は一瞬で支度を終えた。今は、ドールが作った彼が満足する量の晩御飯を満面の笑みで食べている。
「そんなに美味しいか?」
「当然じゃないですか! ライルさんと食べているんですよ! 朝食もおいしかったですが、今が一番です!」
「そうか」
そんな事を言われて少し、むず痒い気持ちになった。私も久しぶりに誰かと食べたが、こんなに美味しく感じるのは初めてのことかもしれない。あの人達と食べる料理は、いつも味が感じられなかった。私にとって料理は栄養補給でしかなかった。
しかし、誰かがいる食卓も悪くない。口には出さないが、そう思った。
「で、君はどこで寝るつもりなんだい」
「ライルさんの邪魔にならないよう、外で見張っていますね!」
「せめて寝てくれ。……仕方ないな。客間が余っているから、客間で寝なさい」
「嫌です! もし、寝ている間に敵襲があったらどうするんですか!」
「そのため、感知魔法の加工術も施しているし、魔法を無効化される可能性を考えて実際に罠も張っている。安心して寝ろ」
「嫌です! せめて、一緒の部屋で寝させてください! それなら俺もちゃんと寝ますから!」
嫌に決まっているだろうという声は無視され、半強制的に流される形で、彼は私の部屋の床で眠ることになった。
「寝袋だけで大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ! この寝袋でよく野宿するので! あ、安心してくださいね! ちゃんと洗って泥を落としていますから!」
「分かったから、寝ろ!」
「仕方ないんです! だって俺、憧れのライルさんの側で寝れるんですよ! 興奮するなって言われた方が無理です!」
「分かった、分かった。じゃあ、私は寝るからな」
「ま、待ってください! その前に少し聞きたい事があるんですが、良いですか?」
「……少しだけだぞ。で、なんだ?」
さっきのってパーティーを組んでいいってことですか?
控えめな声で、不安そうに彼は私に尋ねた。なんのことだと、一瞬考えた後、思い出した。さっき、とてつもなく恥ずかしい事を喋ってしまったの。
「あ、あれは忘れろ! いや、パーティーを組まないという訳ではないぞ! というか組むが、あれはなんだ、その、言い過ぎた! だから、忘れてくれ!」
「嫌です!何があっても忘れません! 俺はあなたの魔法剣士ですから!」
「今それを言うのはやめろ!」
「それと、これだけは言わせてください。
もう、あのような失態は晒しません。今度こそあなたを守って見せます。命を懸けてでも。」
「言いたい事は分かった。だが、そこまでするな! 死んだら、一生許さないからな!」
「! 分かりました! 」
その後、とてもご機嫌な様子で雑談しようとか、恋をしたかとか聴かれたが、全て無視し寝た。
それにしても、英雄とパーティー……か。人とは関わりたくないが、仕方ない。あれだ。私の夢のために利用するだけ。そう、ただそれだけだ。だから、彼には憧憬以上の感情を抱かない。
もう二度とあのような想いはしたくない。もう二度と……。
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