第6話 ギルド『金獅子亭』

 入国手続きを終え、無事に城門を越えた。少し、私と彼の素性に驚いた兵士が叫びそうになったのを催眠魔法で私たちの記憶を改変したとかそういうことはない。なかったんだ。そうだろう。


「ハイソウデスネ」

「なぜ顔を背けるんだ。話す時は人の顔を見て話すと教わらなかったか」


 まさか、入国の手続きの為にカードを出したら、担当の兵士に叫ばれそうになったのは驚いた。滅多にぺリティカ王国に現れない私が、≪英雄≫セティ・ギャリバーンと一緒にいたんだ。一体、何の間違いかと思われたのだろう。とりあえず、何も問題ないという風に改変魔法を使って無事に入国することができた。

 さまざまな人間や亜人がそこら中を歩いている。ここ、ぺリティカ王国は、人であろうが、なかろうが、入国を受け入れ、本人の希望があれば帰化も基本的に了承されている。トラブルはないとは言えないが、平和的な国であることは確かだろう。


 先代は他国を侵略していたが、今代の王になってからはそんなこともなくなった。土地を奪われていた民達に領土を変換し、奴隷として扱われていた者達も、制度を整えてから解放した。今代の王は、まだ未熟ではあるが、国民の事を第一に考え、民達から慕われている。少し、性格に難はあるが、優しい人間ではある。


 このような国だから、さまざまなギルドが立ち並び、マスターも人だけでなく、獣人やエルフ、竜人、魔族など多岐に渡っている。


「――それで、どのギルドに行くつもりなんだ? 場所によっては嫌だからな。とくに『金獅子亭』とか『金獅子亭』とか……」

「え、ダメだったんですか? というか、もう着きましたよ」

「は?」


 考え事をしながら歩いていたせいか、どこに向かっているか気付いていなかった。に見つかる前に早く逃げなくては!


「あらぁ、あのセティちゃんが誰か連れてる! もしかして、デート? デート?」

「違いますよ、レオーラさん。ちょっと彼に俺の実力を見てもらうと思って、ギルドで依頼を受けに行こうとしてただけです。――あれ、どうしましたライルさん?」


 その声に彼女は反応し、ゆっくりその場から離れようとした私の存在に気づいた。瞬間、走ったが彼女の腕に捕らわれた。


「きゃあああ! ライルちゃんじゃなーい! 元気にしてたー?」

「は、放してく……れ……」

「ラ、ライルさんが気絶したぁーっ!?」


――――



「お2人はお知り合いだんですね!」

「親友よ!」

「腐れ縁だ。そもそも、私に友人は居ない。彼女が勝手に思い込んでいるだけだから真に受けないでくれ」

「もうっ、ライルちゃんったらひっどーい! それにあたしの名前は彼女じゃなくてレオーラよ!」

「いやレオンだ――」


 そう言った瞬間、私の隣の壁が砕け散った。


「あらぁ、何か言った?」

「……これだから、人間は嫌いなんだ」


 レオーラ、本名をレオンという。『金獅子亭』のギルドマスターであり、私の古くからの知り合いである。身体は男性だが、心は女性の獅子の獣人である。彼女の鍛えた身体はどんな物体も破壊するほど、力強い。もし私があの一撃に当たっていたら、この世には居なかっただろう。その強さと髪の色から、『金獅子』と呼ばれる凄腕の冒険者でもあった。自分のギルドを設立した後は、冒険者として活動することはなくなったそうだが、力は衰えていないようだ。


「それにしても、セティちゃんは憧れのライルちゃんにやーっと会えたのね!」

「はい! それと俺、ライルさんの魔法剣士になるって決めたんです! そのために、最高難易度のクエストを受けに来たんですが、ありますか?」

「あらあら!」


 顔をにやけさせる彼女を睨みつける。どうせ変な勘違いをしているのだろう。


「君が考えているような事は無いからな。彼が確かに強ければ私は彼と一緒に組むと約束しただけだ」

「それってもう告白じゃない?」

「そんなのではない! というか、早くクエストを紹介してくれないか! 無駄話をするためにここに来た訳じゃない!」

「うふふ、照れなくてもいいのに! でもそうね、ちょうどセティちゃんを呼ぼうと思ってたのよ。さっきにギルドに緊急クエストが入ってきたのよ」

「! それは本当ですか、レオーラさん」


 緊急クエスト、彼女のその言葉に少しざわめきを覚えた。英雄であるセティを呼ぶほどとは、一体何があったんだ?


「ベフィロス平原でドラゴンが現れたの」

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