第5話 出発

 朝食を先に食べ終わると、やっと動けるようになったのか、彼が居間に入ってきた。ドールに料理を出してもらうと、彼は量の少なさに驚いていた。私は小食で油物が苦手なため、彼のは少し多めに作ってもらったが、それでも少なかったようだ。仕方ないので、彼のために肉をもう1枚焼いてもらった。着替えを終え、彼の食事も終わり、準備は万端だ。


「で、どこに行くつもりなんだ?」

「ぺリティカ王国のギルドに行こうかなって考えています。どうですか?」


心配そうに私の表情を窺いながらそう尋ねる彼に、問題はないと了承した。 この仮面は私のトレードマークともなっているため、この仮面を被っているということは私ということになる。そのため、注目を浴びないために仮面の設定を変える。上半分だけの陶磁器製の仮面から、素肌に見えるが顔を見ることができないようにする。私が加工術を施したため、一般の仮面より高性能である。


「え、仮面が急に見えなくなった……でも、素顔は見えないなぁ。ということは、その仮面にも加工術を施されていたってことですね。あれ、というか魔石がなくても設定って変えられるんですか?」

「この仮面は魔石嵌め込み型なんだ。自動で魔素を取り込んでくれるから、魔力が切れる心配もない。気づかなったか?」

「え、もしかしてその赤い宝石がですが?」

「そうだ。これは私が加工術で赤い魔石にした人工の魔石で、もとはただの石だ」

「き、気づきませんでした。てっきり、キレイだから何かの宝石かと。加工術ってそんなこともできるんですね!」


 加工術とは錬金術とは違い、無からつくりあげるのではなく、存在しているものを改変することができる術である。ただの棒きれも、加工術を施せばドラゴンを一撃で倒すことが可能になる。あまり認められてはいないが、場合によっては人体も改変可能だ。加工術によって、同性同士でも子が作れるようになったのは、もう15年前からだろう。……というか、私が5歳の時に編み出したのだが、それは言わなくていいだろう。


「支度を終えましたし、早速ギルドに向かいましょう!」

「おい待て。走って行く気じゃないだろうな」

「え、そうですけど」


 彼の返答に頭痛を覚えながら、こっちだと彼を家の奥へと誘導した。


「これで行くぞ」

「え、この大きな機械で? 初めて見たような、前にも見たような……。これは一体なんの機械なんですか?」

「転移装置だ。前に言ったが、私はスタミナがない。このまま山を下りたら、町に着いた途端に倒れるぞ。だから、この装置で王都まで転移するんだ」

「なら、俺が抱えて運びましょうか!」

「君、自分が尋常ではない速さで走ることを理解しているのか? 揺られたら気分が悪くなるだろう」


 私を抱きかかえようとする彼をなんとか落ち着かせ、装置の座標をぺリティカ王国の前に設定する。中が空洞な円柱の中に2人入り、機械を作動させた。光に包まれ、光が収まった後、目の前は王都の城門前であった。


「これが転移なんですね! はじめて体験しました!」

「そこまで興奮することじゃないだろう。それよりも、早くギルドに向かいたいんだが」

「分かりました! 早く城門を通りましょう!」


 やっと彼の実力が見れるようだ。楽しみのような、不安のような、そんな想いを抱えて、私たちは入国の列に並んだ。



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