第1話 英雄と呼ばれる男

「お願いします、俺専属の加工術師に……」

「嫌だと何度も言っているだろ。そろそろ諦めてくれ」

「お金はいくらでも払います!」

「いらん、興味ない」

「そんなぁ……」


 何度も私につきまとう男ことセティ・ギャリバーンは有名な冒険者であった。海よりも濃い青い髪と透き通るような綺麗な水色の瞳とした人間である。私が住んでいるぺリティカ王国の魔法剣士であり、英雄であった。彼は無尽蔵ではないかと言われるほど、多くの魔力を有し、剣の腕もたち、見ただけでは分からない鍛えられた強靭な肉体を持つ実績も多い剣士である。

 そんな彼を少しうらやま……ではなく、噂は私の耳にも入っていた。よく私自身が記号を記した武器や防具を使っており、会った事はなかったが依頼されたことも何度かあった。だが、まさか工房に来るとは思わなかった。毎日玄関の前で応対しているが、今日はいつもよりあきらめが悪いようだ。それにしても、家は誰にも教えていないはずなのに、この男はなぜ知っているのだろうか。


「というか、なんで私につきまとうんだ。私以外にも優秀な加工術師はいるだろう」

「だけど、俺の力に耐えられる武器や防具は、ライルさんが記したモノ以外ないんです! それに、あなたの仕事を横で見たいんです! 専属加工術師がダメなら、俺を弟子にしてください!」


 弟子になりたいだと?


「君は英雄とも呼ばれるほどの魔法剣士なのに、何を言っているんだ」

「俺、本当は加工術師になりたかったんです。だけど、戦うこと以外は苦手だし、記号は複雑すぎて覚えられないし……だから! 一流の加工術師であるライルさんと一緒に居たいんです! お願いします!」

「……」


 彼は本当は加工術師になりたかった、か。……私と正反対ではないか。


「私は君がうらやましいよ。魔法剣士としての才能のすべてが」

「ライルさん……?」


気づけば私は彼に話していた。夢のこと、現状についての心境を。よく知りもしないやつに、なぜここまで話してしまったのか、それは私にも分からない。ただ、どうしようもない苛立ちともやもやとしたモノが胸に広がっていた。きっと私は彼を許せないのだろう。自分がなりたいものになっているのに、彼にとっては加工術師になりたかった。まるで私のような、そして私と正反対のような彼が。

 別に彼が悪い訳ではない。ただ私の心が狭いだけだ。明るくてまるで陽だまりのような男。その近くに私は居てはいけない。


「だから私は、そんな君と関わりたくないんだ。これ以上、私に付きまとうというなら実力行使に移すからな。

 分かったら、もう帰ってくれ。そして、二度と来るな」


 少しキツイ言い方になったかもしれないが、多少強引な彼には丁度良いかもしれない。

 私の言葉が響いたのか分からないが、真顔になって少し考える。そして、彼は口を開いた。


「じゃあ、俺と一緒にパーティーを組みませんか?」

「は?」

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