プロローグ ライル・エリドットという男

 加工術、それは魔法を発動させる為に必要な記号、またはそれを記す事をいう。それを生業にしているのが加工術師である。加工術は魔力を持たない人間でも記号を記すとができるが、効果が高いものほど複雑な記号になってくる。なかにはアレンジしたものや、優秀な加工術師になるほどオリジナルの記号をつくる者も存在する。



 自慢ではないが、私ことライル・エリドットは、優秀と呼ばれる方の加工術師であった。さまざまな記号をすべて記憶し、その記号をアレンジ、オリジナルの記号も作りだしている。前に作った別の場所にすぐ着く転移装置もすべて私が作りだした。私専用の工房を持ち、今の現状に何の不満も持っていない……とよく勘違いされる。

 だが、私はこの状況を素直に喜ぶことができなかった。なぜなら、私がなりたかったのは加工術師ではなく、魔法と剣を使い敵を倒す、魔法剣士になりたかったんだ!

 なのに、私には魔力を作る器官、魔臓が備わっていなかった。その為、魔法剣士の名門の子息に生まれた私は必要な存在ではなかった。たとえ学の才能があったとしても、加工術師として一流であっても、あの人達は私を認めてくれない。祖父には殺されかけ、父には無視され、妹には罵倒される。母が死んでから、あそこに私の居場所なんてなかった。

 だから家を出て、母の旧姓であるエリドットと名乗り、何の後ろ盾もないまま、雑用でもなんでもこなし、加工術師としての下積みを積んできた。そのおかげで、今では自分の工房を持つ一流の加工術師である。

 そんな私は、家のこともあり、立派な人嫌いになったのは仕方のない事だろう。特製の仮面を被り、誰も知らない私の工房兼家で暮らし、最低限は人間を避けて生きてきた。しかし、今の状況はなんだ。


「俺専属の加工術師になってほしいんです!」


 そうはじめて言われてから、今日で何回目か忘れた。私は今、ある魔法剣士につきまとわれている。

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