第19話 孤島の名探偵⑦
いやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
どういうことだってばよ!
狂言? ということはこれまでのことは全て嘘だった?
そんなことが有り得てたまるか、有り得るはずがあるものか!
「……あー、どうやらかなり落ち込んでいるようだけれど、要するに、これは嘘だった、ということなんだ。とどのつまりが、今までのことは君の新入部員の祝いだと思ってくれれば良い」
「いやいや、そんなことを言われても……」
「言いたいことは分かっている。分かっているが、全て事実だ。受け入れろ」
「ってことは僕が言っていたことも全部聞こえていた、と?」
「マイクがついているものでね。残念ながら、全て聞かせて貰ったよ」
「それじゃ、僕の推理を笑いながら聞いていたんですか、貴方達は!」
「笑いながら、とは言わないが、笑う程のことではあったな。おー、上手く誘導されているな、なんてことを思っていたりしていたよ」
「馬鹿野郎!」
思わずそんなことを部長に投げかけていた。部長は二年生で僕は一年生。埋まるはずのない、一年の壁を悉くぶち破っていくその言葉。はっきり言って、僕にとって最低最悪の出来事であることには変わりないだろう。
というか、最悪の出来事だ。
普通、考えたところでそれがどうこうなるかって話になるのだけれど、冷静に考えてみて、僕の考えがまともになるのかと言われれば、ならないというのが自明の理だろう。
なるはずがない。
なれるはずがない。
「……おーい? まさか本気で怒っている訳じゃないよな? 確かに騙したのは悪かったけれど、少しは諦めを持ってくれよ。そうじゃないと、宇宙研究部で、いや、この学校でやっていけないぜ?」
ニヒルな笑みを浮かべた部長は最高にクールだった。
いや、クールというよりか。
悪魔のような笑みを浮かべているように見えた訳であって。
それがどう考えたって、やっぱり悪魔のようにしか見えないのだった。
それが、僕の勘違いであったとしても、それはきっと間違いではないのだろう。
※
エピローグ。
というよりただの後日談。
最終日であった今日は午後に神奈川に帰ることになっていた。
昼食を頂いて、僕達は頭を下げる。
「ありがとうございました、桜山さん」
僕の言葉に、何のことかな? と言う。
はて、そんなことを言ってくるとは思わなかった訳だけれど。
「桜山さんはいつか必ず会えるのですっ! 二度と会えないなんてことは有り得ませんよ」
何だかキャラクターが変わってしまっているような。
まさかあのキャラクターも『作っていた』ものだっていうのか。
もう何を信じたら良いのかさっぱり分からない。
桜山さんの言葉を聞いて、部長はゆっくりと頷いた。
「そうだぞ、いっくん。必ずいつか会える差。そう遠くないうちにね」
そう言って。
まるでまた会う機会が用意されているかのように。
その後、桜山さんと僕達は船に乗り込み、横須賀の漁港に向かって船を動かし始めるのだった。
※
後日談と言えば、もう一つ。
八月一日。
この日は、学校で部活動のある日だった。
そもそも文化部であるこの宇宙研究部に何があるのか、という話だが、実際には夕方から校舎の屋上(勿論、許可は取ってある)にて天体観測兼UFO観測を行うためにやって来たのだった。
そんな僕達を部室で待ち構えていたのは、メイド服の似合うあの女性――桜山さんだった。
「桜山さん!?」
「はーい、改めまして桜山杏奈です。この学校で数学の授業を務めています。勿論、会ったことはないかもしれないけれどね」
確かに会ったことはない。
もし出会っていたらもっと反応が違っていたはずだ。
「二年生から三年生の数学を担当しているからね。一年生である貴方達には分からないことだっただろうけれど」
「ということは、金山さんは知っていたんですか?」
「ええ、最初からね。けれど、『言うな』とあいつから言われていたから」
あいつ、というのは部長のことだろう。
部長め、いい加減にしろ、と思った。
「ところで、どうして桜山さんはここに居るんですか? そして、どうして桜山さんはメイド姿なんですか?」
「一つ、ここに居る理由は私がこの部活動の顧問だから! 二つ、それは私の趣味だから!」
「いや、趣味、って……」
正直言って、メイドをすることが趣味の先生なんて聞いたことがない。
変態と言っても過言ではないだろう……。それは言いすぎかな?
「今、私のことを変態と思ったのではなくて?」
「な、なぜそのことが分かったんですか!」
「分かるわよ。だってそのオーラがぷんぷんするんですもの!」
「いや、オーラってどういう理屈ですか、オーラって」
オーラで人の考えていることが分かるなんて、そんなこと聞いたこともない。
いや、聞いたことがあっても胡散臭いと思ってしまうのは当然の理屈だろう。
そもそもメイド趣味の先生なんて聞いたことがない。
あ、これは二回目か。
「二回も同じことを考えたわね。二回も!」
「いや、マジで分かるんですか、オーラって凄いなこりゃ……」
オーラを消すにはどうしたら良いんだろう。はっきり言って、他人に思考が読み取られるって気持ちが悪い。出来ることならそれを辞めて貰いたいぐらいだ。
「気持ちが悪いってどういうことよ、気持ちが悪いって。……ま、あまりこの力を使わない方が良いってことは分かっているし、これ以上は使わないことにするわ。その代わり、この力のことは内緒にしておいてね?」
「は、はあ」
内緒にしておいて、と言われても。
きっと信用してくれる人が居るとは到底思えない。
「さあ、夏休みも折り返しよ!」
桜山さんは告げる。
「宇宙研究部も盛り上がっていきましょう! 秋の文化祭に向けて何かやらないといけないしね……。やるとしたら、今年も新聞発行かしら? 写真の掲載もしても良いかもね? 何でも、写真を撮ることが出来たのでしょう! UFOの写真を!」
ああ、この人もやっぱりUFOに愛着を持っているのか。
というか、そうじゃなきゃ宇宙研究部なんて変な部活動の顧問なんてやるはずがないか。
そんなことを思いながら、僕は紙パックのオレンジジュースを飲み干すのだった。
夏は未だ始まったばかりだ。
暑い暑い夏は、今も未だ続いている。
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