陰キャの僕は陽キャになりたい人生だった

枝豆

陰キャの僕は陽キャになりたい人生だった


「こんにちは!僕たちのサークルはー」

「ねえねえ。君たち、バスケとか…」


 新年度が来て新しく新入生の入ってくる時期となった。道を挟む木々は青く茂っていて、緑の香りもかすかに漂う。受験戦国時代の冬とはだいぶ違って、どこもかしこも明るい雰囲気が漂っていた。そんな周りをきょろきょろしながら道を歩く僕も新入生なわけで、サークルの勧誘という人の波にもまれているわけだが。


「合気道はー」

「サッカーはー」

「軽音とかー」

「ポケモーー」


 ……どれもこれも僕がやりたいものがない。僕は運動とかできないし、中学・高校では芸術系の授業の評価がかなりギリギリ赤点回避レベルだったのだ。さすがにその状態で軽音だのあーだの入る勇気はない。

 でもやっぱり、大学生になったからにはサークルがあーで、彼女がどーで、キャンパスライフどうのこうのときらびやかとした青春が送りたい。ええ、送りたいですとも。そのためには、やっぱり友好関係を築くという意味でのそういうサークルには入っておきたい……が。うん、どこにも自分ができそうなやつがねえ。某有名キャラクターが出るゲームのサークルは一瞬いいなって思ったけどガチだったらやばいし、キラキラした生活とは無縁な気がする、うん。いや、偏見だけど。


 やっぱり彼女を作るならいいサークルとかあるのかな。くっそ、先輩にあらかじめ聞いとくべきだったか。いや、先輩はそもそも彼女いない歴イコール年齢組だ。畜生、くそったれ、役に立たねえ。ここは、やっぱりグーグル先生?大学、彼女、サークルで検索かけよう。うわ、マジで出てきた。さすが先生頼りになるー!なになに、“出会いの数×アプローチ“[1]……?”飲みサーは女性の質が悪い”[1]……?うわ、めっちゃ言うやん。でも、これを手立てにサークル見つければ、僕にも周りから崇め奉られるキャンパスライフが…!これは行動あるのみ、急いで探すしかないっしょ!


 とか、脳内テンション高めに考えてみるけども。実際僕のテンションはそんなに高いわけでもなく、そんな恋人を作るキャパシティーもスペックも…ここでは言及しない。兎にも角にも先生の言葉を信じてサークルを見繕ってみる。うん、やっぱり運動系が多い……のか?いや、苦手だからと言って避けていたら今までと同じジメジメした世界の住人となって、高校時代と同じ男同士で集まり……も、しないでスカイプ上のクリスマスを過ごすなんてこともあり得る。それだけは、絶対に、ぜっったいに避けなければ。

 そうとなれば早々に行動を起こすしかないわけで、僕はサークルの活動場所に向かって第一歩を踏み出した。覚悟を決めた僕の周りは心なしか輝いて見える。木漏れ日が僕を包み込んで、勇気をくれるんだ。今の気分は勇者気分、この調子でいけばきっと本物の勇者に転生ができる。そう信じて足を一歩、また一歩と進める。そして、集合場所が目に映って……


「え、まじで!?」

「ちょーうけるんだけど!」

「いや、まじまじ!やばくね?」

「えー、まじやば!」


 うっ……、僕の心に10のダメージ。これはキラキラ特有の雰囲気だ。ジメジメ特有の雰囲気をまとった僕には効果が+5した後に2倍になる威力、そしてバフを溶かす効果さえ付属している、ように見える。発言の後にWが入りそうなしゃべり方は僕の防御力をWの数だけ下げてそうだ。いや、違う。彼らはWなんて文字を使わず(笑)だの、笑だの、顔文字だのを使うんだった。こんなWの世界にいては、キラキラ人生まではまだ遠い。彼らのぐいぐい来る調子についていくんだ、むしろ乗っていかなければダメージで押し切られて倒れてしまう。深呼吸して、心の準備を…


「君、サークル身に来てくれたん?」

「うわ、まじで?ちょーやば」

「まじかー!じゃあちょっとこっちにこいよ!先輩がみっちりここの良さを…」

「えっ、あっ、えっと…あの…」


 え?まって、まって!まだ準備が!

ぼくの心に 十のダメージ!

 できてないって!

ぼくの心に 十のダメージ!

 うっ……まだ…まだ、戦える……っ!

ぼくの心に 十のダメージ!

 あっ……

ぼくは めのまえが まっしろになった!


[1]・・・「https://彼女作るの難しい.com/大学生の彼女作り方/サークル彼女/」参照

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