第7話「義務」

 風が強く吹いている。砂埃がひどく、遠くは見えない。木々は無く、ごつごつとした岩肌が露わになっている。

 ここは、荒涼とした大地の果て。世界の渕とも呼ばれる大崖だ。

 この崖から、地中までの高さは――不明。誰一人としていったことのない未知。

 巷ではこの先に宇宙人が住んでいるとか。

 そんな噂が流れているが、それを確かめるには絶望的なほどに深い穴だ。

 そんな場所が僕のお気に入りでもあるのだが。

 ――最近穴が泣いている。

 それはきっと幻聴で空気の通る音だとは分かっている。だが、僕には泣いて聞こえてしまう。赤子のように生易しくはない、すすり泣く化け物。

 身体に矢をくらった巨獣のようなうめき声。

 ――昔はこんなんじゃなかったのに。

 昔の穴は鳴いていた。

 小鳥の。とはいかないが、せせら笑うような。とても愉快で快活な。

 何故、こうなったのか。

 ――原因は、七色の煙だ。

 鉄の箱が生み出した煙だ。自然にある虹色をしながら、その実猛毒の。

 それがこの穴が泣いている理由だ。

 僕は、この穴の行方を見ていなくちゃいけない。

 ――泣かせた奴が責任を取るしか、この世に方法は無いのだから。

 手を取る日は、まだ遠いのだろうけれど。

 少しずつ分かってもらえれば幸いだ。

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500の追憶 麻上篤人 @031-2

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