第6話「注目の的」

 ある時から、人の視線に入らなくなった。

 学校に行けば席はある。友人と同じように話を聞いて、話しかけられもする。なのに、目は合わせてもらえない。

 わざとだと思っていた。新手のいじめかとも思った。だが、一か月もそれが続くと、流石に恐怖を覚えた。

 誰も、僕をまっすぐに見てくれない。

 それが異様に怖かった。

 無視とは違う。ぽっかりと開いてしまったような虚。それは、存在しないのと同義ではないだろうか。

 ――僕は世界から零れた。

 得も言えぬ感情を抱えながら、日々は過ぎていった。

 社会人になった僕はいつしか、誰かの目を見て話すのがクセになっていた。いつか誰かが僕を見てくれるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いたけれど。

 ――僕を見る者は誰一人いないのだ。

 自由ではある。だが、悲しくなる。人が雑多な地下鉄のホームでさえ、僕も見てくれるものはいない。

 電車の前に飛び込めば、誰かは見てくれるだろうか。見られていないのなら、死んでしまってもいいだろうか。

 ――そうだ! 死のうとすればいい!

 丁度、電車のヘッドライトが見えた。

 僕は駆けだして、そのまま線路内へ飛びこんだ。

 ――僕を見ろ!

 最中、ホームに振り返る。

 そこで驚くべき光景を見た。

 全員が一斉にスマホを構え、僕を撮るのだ。

 あんなにも、関心を向けられなかった僕を。

 ――やっと、見てくれた。

 瞬間、僕の身体に衝撃が伝わって。

 それからどうなったのかを、僕が知ることは出来なかった。





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