第4話「灰の降る小町にて」

 この町には灰が降る。

 それを知ったのは物心ついた頃だった。

 原因は遠い地方の有名な山。その山の噴火が止まらずに数百年も灰が降り続けているらしい。

 俺が、産まれる前からずっと。


「――さて、今日も精を出しますかぁ」

 着込んだ作業服に、頭をすっぽりと覆うヘルメット。視界を確保する為だけに作られた防塵ゴーグルの位置を調整しつつ、相棒となるシャベルを担ぐ。

「何を当たり前なこと言ってんだ。やんないと死ぬ。それだけだろ」

 隣で冷えた意見を述べるのは同僚の中西だ。同じ格好に身を包んでいるので、声を聞かないと分からないがきっと、ゴーグルの奥はむくれ面をしているに違いない。

「そのうち肺に灰が詰まって死ぬぞ?」

 流れるように凍えるようなダジャレを披露しているのだが、気づいていないようなので俺は見て見ぬフリをする。

「せめてマスクがあればなぁ⋯⋯」

 ぽろりと出た愚痴は存外的を得ている。

「無理だよ。全部埋まってんだ」

 そう、埋まっている。一部ではなく、全てが。

 この町には灰が降る。それは隣の町も同じで、そのまた隣も、また隣も一緒だった。

「やまないよなぁ⋯⋯これ」

「無理だろ。これは」

 俺と中西は空を見る。

 ただ雪のような灰が胸いっぱいになるまで吸い込んで、それから地面に寝転んだ。


 ――世界にはまた、灰が降る。

 やむのはいつか分からない。それでもまだ寝てはいけない気がして、私は1人、起き上がる。


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