第3話「時間のない部屋にて」

「あなたはどうして生きているの?」

 柔らかな少女は唇を滑らせ、乾いた声で聞いてくる。

 6畳程度の密室。白塗りの壁はどこまでも広がり、際限が無い様にも見える。

「それは、世界を遺すためじゃないかな」

 僕は対面に座る少女を見つめて返した。少女は白いワンピースに身を包み、スカート抑えて体育座りをしていた。

「どうして?」

 首を傾げる少女に僕は言う。

「次を作るのが人間の使命だよ。永遠はいらない。永遠出ないものを永遠にしようとすれば、永遠ではなくなるから」

 言って、それが自分たちではないのが悲しくなる。

「何それ、変なのー」

 悟る様な僕の言葉に、少女はケラケラと笑った。

 ――いや、笑ってもらった。

「いいんだよ。変なので。だって、答えなんてないんだ」

 僕も笑った。

 少女と同じく体育座りをして、その膝へ顔を埋める。

 無垢な少女は近寄って、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「⋯⋯ぎゅー、ってしてもいい?」

「なんで?」

「私がしたくなったから――だよ?」

 見れば少女は微笑んで、両手を広げて待ってくれていた。

「じゃあ、それでいいよ」

 僕はそれに縋った。

 それは、どうしようもなく温かく――そして、涙が零れる程度には柔らかかった気がする。

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