第2話「早朝の助手席にて」

 今、父親に殺された。

 車の中で言い争いになって、自分は愛されていないと知ったから。

 泣いたけどダメだった。喚いたれど伝わらなかった。

 結局はいらない子で、父親にとって一番大切なものは父親自身なのだと彼は言った。

 もう彼を父親などと呼びはしないし、呼びたくない。

 僕は幸いにも18だ。

 もうすぐで家を出られる。

 なら猫を被って従順なフリをしよう。

 もしくは、

 今座っている席のシートベルトをとっぱらって、高速道路に身を投げ出してもいいのかもしれない。

 助手席のガラスを向いたまま、唇を噛む。

 反射する僕のひしゃげた顔と、その奥に見える父親の横顔。

 苛立ちと悲愴が胸を穿ち、眼から雫が落ちていく。

 やっぱり愛して欲しかった。

 いくら無愛想であっても。

 いくら嫌われていても。

 自分はという自信がどこかにあった。

 なのに。どうして。

 幸せはここには無い。振り払って前を向く。

 ふと、対向車線のファミリーカーが目に入る。そこには仲睦まじく騒ぐ幸せな理想があった。

 羨ましい。

 僕は諦めを覚えた。

 決して夢物語では終わらせたくない。

 次はきっと、上手くやろう。

「着いたぞ」

「うん。行ってきます」

 目的地は遠い空。

 まだもどかしい今を、僕はまだ生きている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る