500の追憶
麻上篤人
第1話「夕暮れの自室にて」
半開きの窓の隙間から、優しい風が吹いてくる。撫でるように白のカーテンが揺れ、忘れていた時間を思い出させた。
「......もう、こんな時間か」
本初子午線からズレはしない精密な機械。
勉強机の上に置かれた電波時計は午後五時を示す。
窓の外の世界は既に黄昏に沈んでいる。
向かいに佇む見知らぬ人の家も、沿道を帰る子供らも、鳴きながら飛んでいく鴉さえ。
その、全てを包み込み。
黄昏こそが全てを――
かたり、と音を立て写真立てが倒れた。少しばかり埃を被った木枠の剥げ落ちた塗装に目をやってから手を伸ばす。
閉じたヒンジを戻してやって、向けられたプラスチックの面がこちらを向いた。
「......ねぇ、しぃちゃん」
少女と少年が仲睦まじく映るその写真は7年前のものだった。
優しく手を掛け、少女の頬をなぞる。かつて少女がそうした様に。
手に着いた埃を見つめながら、少年は涙を零した。
「僕、高校生になったんだ......」
無常にも。残酷にも。楽しい時ほど早すぎて、辛い時ほど遅すぎる。
少女一人いなくとも世界は回る。当たり前の様に進んでいく。
いくら喚いても戻らない少女は今も、写真の中で笑っていた。
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