さよならの風




ふいに訪れた風は

これまでの日々とその温もりを

ゆっくり

ゆっくり、と

手の届かぬ世界へ誘なってゆく



少しずつ冷えてきた身体は

冬の風のせいにして

抱きしめていれば

まだあたたかいよって

縋るように抱き寄せて



静かに伝う頬の雨は

次第に胸のうちへと染み渡り

このまま時が止まってくれればと

いや

どうか時が戻ってくれればと

そんなことを考えてしまうけれど

腕の中で全てを預けたかのように眠る君は

とても穏やかに微笑んで

とても幸せそうに見えるから






今だけは

もう少しの間だけ

君と僕だけの時間を

その温もりを

ゆっくり

ゆっくり、と感じさせて


いつまでも忘れないために

いつまでも心にその温もりを灯すために


もう少しの間だけ

君を抱きしめて

その温もりも思い出も

大切に

温めるように

ゆっくり

ゆっくり、と感じさせて









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