第4話 「下層に潜むもの」 (中編その3)
突如、 甲高い靴音が廊下の先から聴こえてきた。それは極めて落ち着いた足取りで、こちらに近付いて来ているようだ。
ヴァルクライムと対峙していた魔術師が背後を一瞥する。そして慌てて身を翻し、祭壇の後ろへと後退した。
「我らが主、ラザ・ロッソ様であらせられますか?」
敵の魔術師は廊下の奥へと呼び掛けた。
「いかにも、私がラザ・ロッソである」
威厳のある低い女の声が響き渡った。
「おお、御目覚めになられたか! 我が名は、ダウニー・バーンと申します! 私はあなた様の復活に生涯と心血を注ぎ、その過程で人の生も捨てました。可能ならば、あなたの様の忠実なる補佐役に任命頂ければ、この上ない光栄でございます」
魔術師は興奮しきっているようであった。
「ダウニー・バーンよ。何故かそなたの名は記憶にあった。私は知らぬ内にそなたのことを見ていたのかもしれぬな。その方の功績を称え、そなたの望むままの地位を授けよう。今後も我らのために励むが良い」
廊下の奥に一つの人影が見え始めた。
ダウニー・バーンは恐縮しきって主の方へ深く平伏していた。
「私には見えているぞ。その方の他にも何人か人間がいるようだな」
ダウニー・バーンは慌てて頭を起こして捲くし立てた。
「そやつらは我らに仇名す者どもの尖兵にございます! 再び集った数多の同志達を無慈悲に屠った、憎めべき者どもです!」
ややあって、ラザ・ロッソの怒りに奮える声が木霊した。
「感謝の言葉も掛けられず、散っていった同志の無念……我、自らが晴らす!」
ついに彼女が入り口を潜り、その姿をレイチェル達に見せ付けた。
彼女は長槍を大きく後ろに振り被りながら、猛然とヴァルクライム目掛けて突っ込んで行く。
「槍よ唸れッ! 滅せよ、悪逆非道の化身共よ!」
槍が振るわれた。しかしそれは、ヴァルクライムの前を覆うように現れたオレンジ色の壁にぶつかる。そしてガラスが割れるような音を立てながら、魔術の壁は粉砕されていた。
ラザ・ロッソの長い金色の髪が大きく揺らめいた。
相手は間髪入れずに槍先を突き出す。ヴァルクライムは避けながら、再び魔法の壁を作って難を逃れていた。
「貴様、なかなかやるな」
ラザ・ロッソが言葉どおり感服するように言った。
「こちらの言葉に耳を傾ける気はあるか?」
ヴァルクライムが尋ねると、相手は激昂し槍を振るって叫んだ。
「その手に乗るものか、魔術師が! 我が意地に変えて貴様に詠唱の隙など与えさせはしない!」
「ならば、ラザ、これだけ覚えておけ。そして目を凝らせ。お前の傍にいる者達と、私の後ろにいる者達、果たしてどちらの心に穢れがあるだろうか」
廊下から慌しい靴音が響いてきた。程なくして敵の増援が入り口を潜って現れた。甲冑に身を包んだリザードマンと、ダウニー・バーンと同じ黒装束の人間達であった。そして部屋に駆け込むや、リザードマンを前衛として横並びに陣形を構え始めた。
ラザ・ロッソはそれらを一瞥し、ヴァルクライム見て鼻で笑った。
「私をたぶらかそうとした様だが、私は忘れていないぞ。善人を名乗る者達もまた、我らを裏切り追い詰めたことを!」
ヴァルクライムは襲ってきた怒りの槍を避けつつ、大きく間合いを取っていた。彼の方が押されているのは明らかな上、後方の援軍も加われば絶望的な戦力差であった。
「アイツは、こんなときに何やってるのよ」
ティアイエルが苛立たしげに自分達が潜ってきた廊下を振り返った。
当然クレシェイドのことを言っているのは明らかであった。ヴァルクライムはすぐに現れるようなことを言っていたが、未だにその気配はない。
ラザ・ロッソの鋭い攻撃が、ついに魔術師を壁際まで追い詰めていた。
「万が一のときは、アンタ達、逃げることだけを考えて!」
ティアイエルが地を蹴り、翼を広げてラザ・ロッソに向かう。
彼女は短槍を構えると、敵の背後を襲うべく滑空した。
しかし、槍先が届く前に、ラザ・ロッソは反転するかのように身を避け、逆にティアイエルの背中を槍で打ちつけていた。
小さく呻き声を上げて、ティアイエルは床に倒れた。
ヴァルクライムが光る杖を向け、魔術を放とうとしたが、長い柄で肩を打たれ、彼もまた壁に沿って崩れ落ちていた。
「まとめて楽にしてやる」
敵の女が槍を振り上げた時、レイチェルとサンダーは、雄叫びを上げて敵へ向かって突っ込んでいた。
背の高い白い神官服が見えてくる。ラザ・ロッソがこちらを横目で見たように思った。
サンダーが躍りかかるが、疾風の如く振るわれた槍に叩かれ床に転がる。そして槍先は鋭く風を切って真っ直ぐレイチェルに向けられた。
レイチェルは相手を見上げた。まるで厳粛さを司る様な冴え渡った瞳が、射抜くようにこちらを見据えている。力強い眉と、眼光と、引き締まった口元と合わせて、揺ぎ無い敢然たる意思を感じさせた。相手は綺麗な女性であって、その服装と共に、これほど神官らしい人間をレイチェルは初めて目にしたような気分になっていた。
「貴様は神官か?」
ラザ・ロッソは低く凄みのある声でレイチェルに尋ねた。
「そうです」
レイチェルは気持ちが萎縮されてゆくのを感じ、努めて頑として応じてみせた。
「初々しい。絶望を知らぬ顔だ」
相手は視線を微塵も逸らさずに言った。
「仇名す以上は、子供とはいえ、その首は刎ねてくれるぞ」
憎しみに溢れた罵声と共に、目の前の槍が突き出され、レイチェルは思わずギュッと目を瞑る。親友と仲間の姿が脳裏を過ぎった。そして彼女はそのまま視界に広がる暗い世界に沈むような感覚に陥った。
「迷っているのか、私は……」
すぐ側で戸惑いの声が聞こえ、レイチェルは生きていることを実感し、その目をゆっくりと開いた。
煌く刃が鼻先で止められている。そしてラザ・ロッソは額に手を置き、大きく目を見開いている。それは内側にある激しい当惑を全て曝け出しているように思えた。今、彼女が見ているものは、視界に存在するものではない。
「ラザ」
ヴァルクライムが声を掛けると、相手はハッとして、殺意の漲った顔を振り返らせた。
魔術師は崩れた体勢のまま話した。
「お前がかつて望んだとおり、時間は掛かったが、今、ようやく世界は平穏になっている。……もう一度、お前を起こした奴らの顔を見てみろ」
ラザ・ロッソは言われたとおり、遠くに控えるダウニー・バーン達を振り返る。
「残念だが奴らは小悪党ではないぞ。そいつらは魔道で尖兵を生み出すことに成功している。規模の大きな戦争を出来得る力を十分に持ち合わせているということだ。このままでは、また争いが起こって、かつての惨状を目の当たりにすることになるだろう。それを望まぬなら、勇気を持って決断しろ」
ヴァルクライムは相手を諭すように言った後、強く訴えかけた。
「惨劇を起こす側になるか、止める側になるか、あるいは全てを傍観し新しい平穏な人生に踏み出すか。後者の二つを選ぶのなら、少なくとも私個人での協力を惜しまぬつもりだ」
レイチェルの目の前から槍先がゆっくり離れていった。
ラザ・ロッソはヴァルクライムから倒れているティアイエルとサンダーに目を向け、最後にレイチェルを見て、しばし強い光りの宿る眼光を、苦悶の表情と共に揺らめかせていた。
レイチェルは思った。この人は私を見ているわけではない。進む道を、救いを探しているのだ。
詳しい事情はわからない。ただ戦乱の時代に最初から最後まで翻弄され、人々の先頭に立ち続けた哀れな人なのだ。
私に出来ることは、この人の運命を再び残酷に狂わせないようにすることであり、その生を肯定し、手を差し伸べ、相手が望むまで寄り添ってあげることだ。彼女の生を偽りの命と認めぬ者がいるならば、それが神であろうと断固立ち向かう覚悟も今ここで抱いた。何故なら彼女は善人であり、そうあり続けたいと痛切に望み始めているからだ。
レイチェルは意を決して口を開こうとした。しかし、突然、おどろおどろしい呪詛が部屋中に響き渡り、その言葉を呑み込ませた。
それは背後に控える魔術師達であった。
黒装束の魔術師達が薄気味悪い唄を唱えている。その声はみるみるうちに勢いを増し、得体の知れない力を呼び覚ましたかのように、部屋中をも揺るがし始めていた。
「姉ちゃん、危ない!」
サンダーが叫び、レイチェルは目の前の異変に始めて気付いた。
ラザ・ロッソの様子が豹変していた。荒々しい呼吸を繰り返している。両目は真っ赤に染まっていた。
原因は唄だとレイチェルは即座に気付いた。そして身体中の底から怒りを感じた。それは傾き始めていた純粋で正直な心と憧れを、他者が私欲のために暴力的に捻じ曲てみせたということになる。
「ラザさん、しっかり! 負けないで!」
レイチェルは必死に訴え、手を差し出していた。
それは一瞬で、何が起こったのかはわからなかった。ただ目の前でオレンジ色の壁が高い音を発てて散らばったように思えた。
だが、状況はすぐにわかった。オレンジ色の壁はヴァルクライムの魔法の壁だ。そしてラザ・ロッソの槍が目にも留まらぬ速さで、それを破壊したのである。
私を本気で殺そうとしていた。
真っ赤に変わってしまった彼女の眼光を見て、レイチェルは唖然とした。
「レイチェル! 退くのよ!」
ティアイエルが立ち上がって呼び掛けてきた。
「しっかりしなさい、まだ終わりじゃないわ! あの唄さえどうにかすれば良いんでしょ!」
レイチェルは我に返った。
そうだ、そのとおりだ。彼女は希望が湧くのを感じ、決意を篤く固めた。
「そうとも。私が彼女の相手をする。そちらは任せるぞ」
ヴァルクライムも立ち上がっていた。彼の身体を青と、黄色、そして緑色の魔法の光りが包んで消えてゆくのが見えた。
魔術で身体を強化したということだ。ならば任せられる。
レイチェルは頷くと、サンダーと共にゆっくりと後退する。ヴァルクライムが、風のように割り込み、ラザ・ロッソと対峙した。
ヴァルクライムの剣の刃に小さな稲光りが行き来しているのが見えた。そしてその剣の柄が杖のものと同じだったことにも気付いた。剣が仕込んであったのだ。
レイチェルとサンダーは、ダウニー・バーン率いる敵を見た。
「ここには精霊がいないわね。きっと騒音のせいだわ」
ティアイエルが二人の後ろに降り立った。
つまりは、武器を振るって突破しなければならないということだ。
まずは、大斧を手にしているダウニー・バーンがいる。呪われた唄を歌う者達はその後ろだ。辿り着くのは容易ではないが、やるしかない。
すると、突如としてダウニー・バーンが、目の前から消えた。そしてものの一瞬で、大斧を大上段で振り被った黒衣の男がレイチェルの目と鼻の先に現れた。
レイチェルは慌てて避けた。分厚い刃が空を重く唸らせ、絨毯ごと床を打ち砕いた。
「くそっ!」
サンダーが、素早く敵の側面に斬りかかった。しかし、相手の動作は速い。あっと言う間に斧を持ち上げ、無防備であったはずの横っ腹を薙ぐ。サンダーの剣は天井にまで弾かれ床に落ちた。
速さを上げる魔法を使っている。レイチェルも、仲間達も確信した。迂闊に踏み込めば、裏を取られて身体を両断されてしまうだろう。
三人は、自然とジリジリと後退してゆくしかなかった。
ダウニー・バーンが、嘲笑いを浮かべて言った。
「あのような出来損ないでは我らが象徴すらも務まらん。あの方もさぞ失望されることだろう」
「あの方?」
ティアイエルが思わず尋ねていた。
「そうだ。だが、お前達は答えを知らずに死んで逝けばいい」
ダウニー・バーンは鼻で笑うと、一挙に間合いを詰め、大斧を薙ぎ払っていた。
レイチェル達が考えている間は無かった。ただあまりにも呆気ない死の訪れだけを感じていた。
しかし、凶刃はそこから動かなかった。時が止まったように思えたが、自分達が九死に一生を得たことと、その理由がわかった。
得物を握った敵の腕に、細い光りの帯が巻き付いている。それはラザ・ロッソの槍を受けながら、ヴァルクライムの剣の柄から伸びていた。
「これは!? おのれ!」
ダウニー・バーンが狼狽し、苛立ちの声を上げながら、帯を振り解こうとしている。
サンダーが剣を拾って振り被り、機敏な動作で敵の懐に飛び込む。振るわれた刃は、その喉を裂いた。
ダウニー・バーンは悲鳴を上げ身体をよろめかせる。堤を破ったような大量の血が溢れ出てくるが、サンダーは既に避け、相手の背中に回り込んで再び短剣を突き刺した。
黒衣の男は、目を飛び出さんばかりに見開き、口から血を吹いた。
レイチェルは得意げな気分にはなれず、断末魔の姿を唖然として眺めていた。
男が前のめりに倒れると、そこには荒く呼吸を整えるサンダーの姿が待っていた。
レイチェルは自分に促すように思った。これが冒険者だ。そして少年の姿もプロそのものに見えた。
「早いところ、唄を止めようぜ!」
サンダーが真剣な表情で訴え、三人は敵の魔術師達の方へ駆けて行く。
「あいつは俺らの手に負えない危険な奴だったんだ……」
二人の少女の間を駆けながらサンダーが沈痛な面持ちで言った。
「やらなきゃやられる。アンタの判断は正しかったわ」
ティアイエルが淡々と答えたが、レイチェルは少年に掛ける言葉が見つからなかった。
「撹乱戦法で行くぜ。俺が奴らの鼻先を逸らすから、姉ちゃん達は二人掛かりで、どてっぱらから突っ込んでくれ!」
サンダーが指示を飛ばす。
「小僧めが、なかなか見所があるな」
背後から、聞こえるはずのない声が聞こえ、三人は足を止めた。
振り返れば、そこには黒衣のダウニー・バーンの背が、ゆっくり起き上がっているところであった。
「お前、どうして!?」
サンダーが驚愕で叫ぶ。
「なに、今も聴こえるだろう? この呪われた唄が」
相手は詰まったような笑いを交えながら言う。相手が未だに振り返らないのがとても気味が悪かった。
「身体中の血が狂いを上げている。わかるぞ。それは唄のせいだ。不死の血が、我が血肉となった不死の血が、今、燃え上がろうとしている。だが、我が身に宿りし煉獄の番人よ、俺はお前ごときに使役されはしない。逆に取り込んでくれるわ!」
ダウニー・バーンの足元から赤い炎が渦巻いて躍り上がり、身に纏っていた黒装束を一瞬で灰として吹き飛ばした。
思わずレイチェル達はたじろいだ。
炎は消失し、敵が身に纏っている黄金色に輝く鎧が鮮明になった。そしてすっかり骨となった腕と指先が、順繰りに動いている。相手はゆっくりと振り返った。
それは、大柄な人型のしゃれこうべが、豪壮な鎧に身を包んでいる様であった。
「こうなっては人の世に溶け込むことは不可能だな。少年よ、その功績を称え、我が憎悪の炎で、必ずやお前を灰塵にしてくれるぞ」
骸骨が哄笑して言った。そいつが大斧を振り上げると、首の後ろから炎が放射され、マントのような形状をとった。
「ゆくぞ! 煉獄の番人の力を見よ!」
骸骨が斧を地面に振り下ろす。
刃は破片を巻き上げ床を打ち砕いた。その亀裂に沿い真っ赤な炎が頭上高く噴き上がり、まるで意思を持ったかのように、レイチェル達へ襲いかかって来たが、横合いからヴァルクライムの激しい冷気の魔術がそれを吹き消した。
「ちいっ、小癪な魔術師よ! ならば、まずは貴様からだ!」
相手はヴァルクライム目掛けて飛び出した。背中の炎が靡き、火の粉を散らし、絨毯を燻らせている。そして襲い掛かった。
ヴァルクライムは、ラザ・ロッソの槍捌きを防ぐのがやっとの様子であった。彼は突き出されたラザ・ロッソの槍を脇の下で挟むと、そのまま新たな敵へと振り返って剣を向けるが、それは大斧によって手から叩き落とされていた。
レイチェル達は動けなかった。遠目で魔術師がやられようとしているの見ているしかなかった。
ラザ・ロッソが槍を振るい、ヴァルクライムを壁へと振り払った。
魔術師は壁に身体を打ち付けられ、小さく呻く。だがヨロヨロと身を起こそうとした。
「ヴァルクライムさん!」
レイチェルは声を上げ、慌てて助けに駆けていた。呆然としているだけで、我に返るのが遅かったことを心の底から悔やんでいた。
ふと、視界の端に一人の戦士が歩んで来るのが見えた。
全身を黒い鉄の仮面と、鉄の甲冑で身を包み、鞘に納まった長剣を手に提げている。
レイチェルは足を止めた。
クレシェイドは、力強く足を踏み出すと共に、両手にそれぞれ握った短剣のような物を、それぞれ投げ付けた。
それは炎の骸骨にぶつかり、虚しい金属音を発して地面に落ちた。が、敵の気を引くには十分であった。ヴァルクライムは懐を掻い潜って窮を脱し、レイチェル達に合流した。
レイチェルは魔術師の酷い有様に思わず言葉を失っていた。
「戦士よ、ようやく来たな」
痛みを我慢するように、苦笑いを交えて彼は言った。
「すぐ治療します」
レイチェルが言うと、ティアイエルが素早く口を挟んできた。
「あれはアンデットよ。しかも並の相手じゃないわ。アンタは力を温存しなくちゃ」
ティアイエルの言葉には後ろめたさのような戸惑いも現れていた。
「そのとおりだ。それに私もそろそろ限界が近い。魔術を集める度に気が遠くなりかけている」
レイチェルは思わず驚いて魔術師を見た。ティアイエルとサンダーも同様であった。
「クレシェイド」
ヴァルクライムが声を掛ける。漆黒の戦士はこちらに歩み寄ってきていた。
「ずいぶん、遅かったな。途中で何かあったか?」
するとクレシェイドは持ち前の深い音色を思わせる声で応じた。
「俺には力を強化する魔術の方が良かったのかもしれない」
ヴァルクライムは一瞬だけ思案の間を置くと、愉快気に笑った。
「そうか、鎧の重さを考慮してなかったな。申し訳ないことをした。ところでお前さん、ラザ・ロッソを一人で抑えられる自信はあるか?」
「あの女性の方か。わかった、任せてくれ」
クレシェイドが長剣を鞘から抜き払ったので、レイチェルは慌てて口を開いた。
「ラザ・ロッソさんは操られているだけなんです! この唄さえ何とかすれば元に戻ると思います!」
クレシェイドはレイチェルを見下ろし、深く頷いて見せた。
「さて、言ったとおり、私の魔術はもはや当てにはならん。出来ることといえば、あの燃える骸骨をやるための、肉弾での支援だけだ。そしてあの骸骨に止めを刺せるは、ティアの嬢ちゃん、お前さんだ」
「私で出来る理由があるのね?」
ティアイエルは、真剣な眼差しを向け魔術師の言葉を待っていた。
「ああ。レイチェル嬢ちゃんが上手くやってくれるさ」
魔術師がこちらを見て意味深げに口元を歪ませる。
レイチェルは戸惑った。あの骸骨の戦士は不浄なる者に見える。しかし、アンデットを浄化する魔術を得ている自分が、止めを刺す役割ではなく、それはティアイエルに任じられた。
どういうことだろう。
「嬢ちゃん、浄化の祈りを頼む」
ヴァルクライムがレイチェルに向かって言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます