第37話 聖王殿への道

 途中、雨があったので休みを入れ六日掛けて、ホムホムに戻った。

 ヒイロとパオネッタは一晩休んだら開拓村に帰るつもりだった。


 されど、城を立つ前にサルモン王に呼ばれ、会いに行く。

 サルモン王は興奮した顔で私室でヒイロを待っていた。


 サルモン王の機嫌はすこぶるよかった。

「よく来たっちゃ、今日は良い知らせが二つあるっちゃ」


(おいおい、本当にいい知らせだろうな)

 パオネッタが微笑んで尋ねる。


「それで、サルモン王。吉報とは、どんな内容でしょうか?」

「まず、北部針葉樹林を治めるガリガリ族が、ボルベル族に臣下の礼を取るとへりくだってきたっちゃ。貢ぎ物も届いたっちゃ」


(さっそく、聖王候補の威光に頭を下げてきたか。でも、長年ずっと争ってきたのにすぐに頭を下げてくる態度は、ちょっと怪しいぞ)


 ヒイロは懸念を隠して祝辞を送った。

「おめでとうございます。サルモン王。これで、新大陸の平定にまた一歩、近づきましたな」


 サルモン王は、にこにこ顔で話を続ける。

「非常にめでたいっちゃ。だが、嬉しい報告はまだあるっちゃ。七日前に小さな地震があったっちゃ。その地震で、王宮にある秘密の扉が姿を現したっちゃ」


(城にある秘密の扉か。出現したのが、俺がドドンの木を伐った時機と同じだな。二つの事象には関係あるかもしれん。実績も絡むだろう)


 パオネッタの興味を惹いたのか、パオネッタがお願いする。

「是非とも、その秘密の扉の先に行きとうございます」


「俺も行きたいです。サルモン王。お願いを聞いてもらえますか?」

 サルモンは、もったいぶって語る。


「そう、慌てるなっちゃ。ヒイロたちが戻って来るまで時間があったから、調べておいたっちゃ」


「結果はどうでした。なにかわかりましたか?」

「学者の報告によれば、なんと、通路の先にあった場所は聖王殿だったっちゃ」


(聖王絡みの場所か。これは、行くと実績が解除になるかもしれないな。是非とも行かねば)


 パオネッタが目を輝かせて質問する。

「それで、聖王殿とは、どんな場所なんですか?」


「聖王殿は聖王候補が聖王として即位できる場所っちゃ。つまり、ヒイロは試練をこなしてさえいけば、聖王になれるっちゃ」


 パオネッタは、すこぶる乗り気だった。

「一度、行ってみても、いいでしょうか?」


「明日、モモンを連れてヒイロと共に行くといいっちゃ」

 ヒイロはパオネッタと共にお城の居室に戻った。


「この城は聖王の城の一部だったのね」

「サルモン王が聖王殿と呼ぶ場所は、この城と繋がっていたからな。別の建物って状況は、ないだろう」


 パオネッタが聡明な顔で持論を述べる。

「確認してみないと、わからないわ。殿と呼んでいるけど、サルモン王が発見した場所は、神殿とかではなく、城の一部よ。この城は見える以上に大きかったのよ。予想では扉があって、さらなる秘密が奥にあるわ」


 ヒイロは、わくわくしながら語る。

「有り得るね。扉の鍵となるのは、実績だな。実績を全て解除した者が扉の前に立つと聖王殿と呼ばれる施設の内部に入れるんだろうね」


 パオネッタが、うっとりとした顔で話す。

「実績の先にあるものがそこにあるのね」


「新大陸まで来た甲斐があったな。俺は見てみたい。実績解除の先にあるものを」

 翌日、モモンとパオネッタを伴って、お城の中を進む。


 聖王殿へと続く道は玉座の間にあった。玉座の後ろに急こしらえの扉がある。

 兵士が扉を開けると、両側に白い魔法の灯が灯る、幅五mの石畳の道ができていた。


「まるで、隠し通路だな」

 モモンがどんと構えて語る。


わしは昨日、一足先に見て来たっちゃ。ヒイロの指摘した通りだっちゃ」


 パオネッタが明るい顔で促す。

「先に進みましょう」


 通路は真っ直ぐ伸びており、二十mほどで終わっていた。

 通路の先には空けた空間になっており、高さ十m幅十mの大きな扉があった。

扉は白い金属製で、直径八㎝の水晶球がたくさん嵌っていた。


「すごいいっぱい、水晶球があるな、いくつあるんだ」

 モモンが自信たっぷりな態度で答える。


「水晶球は全部で百八個あるっちゃ。古の文献よりわかったっちゃが、この百八とは聖王になるべき人間が達成しなければいけない試練の数っちゃ」


(実績と試練の数は同じ。全ての実績を解除してこの扉の前に来れば、この扉は開くんだな)


「なあ、モモン。この扉の向こうには、何があるんだ?」

 モモンは明るい顔で質問に答えた。


「希望とも、凄いお宝とも、伝えられているっちゃ。だが、真相は、わからないっちゃ」


「いいねえ、浪漫があって。是非この扉を開けてみたいものだ」

 ヒイロは軽く扉に触れた。


 扉の水晶が反応した。水晶の半分以上が薄ぼんやりと輝いた。

「やや? 何ごとっちゃ」


 モモンは慌てふためくが、パオネッタは冷静に扉を見て答える。

「光の数は、五十五個ね」


 モモンが感心した。

「よく、一目見てわかるっちゃね。儂には、すぐには数えられなかったっちゃ」


 パオネッタが軽い感じで尋ねてきた。

「ちょっとした特技よ。どう、ヒイロの解除した実績の数は、現在でいくつ?」


「同じく、五十五個だよ。この扉は、俺が解除した実績の数に反応している」

「決まりね。この扉の先に、私たちが捜し求めてきたものがあるかもしれない」


「そうだな」

 モモンが不思議そうな顔で訊いてきた。


「ヒイロは聖王になるために、この大陸に渡って来たっちゃか?」

(実績と聖王の関係。これは調べてみる価値が有りだな)


「そうかもしれないな。とりあえず一度、開拓の村に俺たちは帰る。そこで新たなる情報を探す。モモンのほうでも、聖王の試練に関する情報がわかったら教えて欲しい」


 モモンが元気よく請け合った。

「わかったっちゃ。ヒイロとボルベル族の悲願が同じなら、協力するっちゃ」

「よろしく、頼むよ、モモン。共にこの大陸の秘密を解き明かそう」

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