第36話 ドドンの木

 三日後、モモンが明るい顔でやってきた。

「サルモン王の許可が下りたっちゃ。明日、ビリビリ族の村に出掛けるっちゃ」


 翌日、七十人のお供と十頭のラマからなる一団が待っていた。

「随分といっぱい人数がいるんだな。多過ぎるぜ」


 モモンが誇らし気に答える。

「護衛と伐った木を開拓村まで運ぶ人足たちだっちゃ」


「開拓村に木を運ぶ人足は必要だけど、護衛は必要ないだろう」

「駄目だっちゃ。ヒイロに何かあればわしが怒られるっちゃ」


「追い返すのもなんだから、一緒に行くか。でも、木を伐るのは俺の仕事だからな。余計な手は出さないでくれよ。呪いの件もあるから、そこは厳命で頼む」


「わかったっちゃ」

 一行は途中休憩を挟んで幅五mの道を進んだ。


 二日目に森は終わり、背の低い草原に入る。

 草原を進むことさらに二日で、林を背にして村が見えてきた。


「あれが、ビリビリ族の村だっちゃ」

 ビリビリ族はオレンジ色の肌をした部族だった。部族の長と思われるビリビリ族の長老が出迎える。長老は白い長い髪をしており、立派な顎鬚を生やしていた。


 長老はヒイロを見ると、伏して一礼してから、立ち上がる。

「ようこそ、おいでくださったっちゃ。聖王候補とボルベル族のかた。村を挙げて歓迎しますっちゃ」


 言葉と態度は丁寧だが、長老の表情には怯えの表情があった。また、心の底からは歓迎している様子はなかった。


(ボルベル族に支配されているんだから、当然の反応だな。しかも、大事な御神木を伐りに来たんだから当然だな)


 モモンが大きな態度で命じる。

「こちらが聖王候補のヒイロ殿だっちゃ、失礼のないようにっちゃ」


 長老が不安気な表情でヒイロを見て頼んだ。

「聖王候補殿お願いがあるっちゃ、紋章を見せてもらえますかっちゃ」


 モモンは怒った。

「ビリビリ族の分際で、何を疑うっちゃか。無礼者っちゃ」


「そうかりかりするな、モモン。長老も不安なんだよ。紋章を見せるくらい、いいさ」


 ヒイロは紋章を念じて出すと、長老に見せる。

 ヒイロの掌に出た紋章を見ると、長老は大きく目を開く。


 長老は伏して謝った。

「失礼しましたっちゃ。それぞ、まことに我が部族に伝わる聖王の紋章っちゃ。どうか、疑った態度をお許しくだされっちゃ」


「いいってことさ。では、さっそくだけど、木を伐らしてもらおうか」

「本来ならお断りしたいところですっちゃ。ですが、聖王を目指す者のお言葉とあれば、止む無しですっちゃ。こちらですっちゃ」


 村の背後の林に移動する。

 木はどれも高さが十五mほどで、幹の太さが六十㎝しかなかった。


 木の形状はブナの木に似ていた

 パオネッタが木を遠めにしげしげと観察して感想を述べる。


「見たところ、単なるブナの木の林にしか見えないわね」

 長老が険しい顔で注意する。


迂闊うかつに近づくと危険ですっちゃ。ドドンの木は、ブナの木と違って襲ってくるっちゃ」


「襲ってくるって、これ全部が襲ってくるの?」

 長老が厳しい顔で教えてくれた。


「一本だけ伐ろうしても無駄ですっちゃ。近くにいる数本も、襲ってくるっちゃ」

 パオネッタが思案する顔で意見する。


「それでもって、その近くの木を伐ろうとすると、さらに周りが反応する。結果、林中のドドンの木と戦わなければならなくなるわけね」


「そうなりますっちゃ」

 パオネッタが知的な顔で提案した。


「これは一工夫が必要ね。数本を引き離してから、魔法で木の動きを封じる。魔法が効いている間に、一本ずつ伐りましょう」


「そうだな。それで、一度やってみるか」

 ヒイロはアルテマ・アックスを出す。林の外れにある木に一撃を入れる。


 途端に、傷付けた木を含む四本のドドンの木が動き出した。

 ヒイロはその場では戦わずに、林から走って逃げる。


 百mほど走って、パオネッタがいる場所までドドンの木を誘導した。

 パオネッタが魔法を完成させる。


 赤く光る直径三mの魔法陣が四本のドドンの木の下にできる。だが、ドドンの木は止まらない。


 パオネッタが困惑した顔で叫ぶ。

「駄目。魔法で足止めできない」


「四本同時に相手にするしかないか」

 ヒイロはアルテマ・アックスを手に木を伐りに懸かった。

 アルテマ・アックスが木にぶつかると、木片が激しく弾け飛ぶ。


 ヒイロは木に囲まれないよう注意しながら戦った。

 周りの木に次々と攻撃が当るが、ドドンの木には急所がないため簡単には伐れない。


 モモンが何事かを叫ぶ。

 ロープが飛んできて、四本のうち三本のドドンの木を絡め取る。


(上出来だ、モモン。ドドンの木に隙ができたぜ)

 ヒイロは動きが自由になっているドドンの木を伐りに懸かる。


 ドドンの木の動きは遅い。一対一にさえなれば問題なく対処できた。ドドンの木は二つに伐られた。


 頭の中でファンファーレが響く。

「呪いの木を伐りし者の実績が解除されました。呪い耐性の褒賞を神殿で貰ってください」


(実績解除が来たね、五十四個目だ。能力アップ系は嬉しいぜ)

 二つに伐られたドドンの木は、根のほうが逃げ出した。


 再びファンファーレが頭の中に響いた。

「魔人の友人の実績が解除されました。友好者の称号を神殿で貰ってください」


(五十五個目の実績も解除だ。しばらく、実績の解除がなかったから、二個解除は気分がいい)


 モモンたちが動きを封じているドドンの木を伐ろうとした。だが、仲間が伐られたドドンの木は逃げ出そうとしていた。そこで、モモンに指示を出す。


「もう、いい。試練は終わった。ドドンの木を放してやれ」

 モモンたちがロープで引っ張るのを止める。


 ドドンの木は植わっていた場所を目掛けて一目散に撤退した。

 現場を見ていた長老を見る。


 長老もドドンの木の伐採が一本で済んで、ほっとしている顔つきだった。

「よし、伐ったドドンの木は、開拓の村に運ぼう」


「わかったちゃ、責任を持って運ぶっちゃ」

 その夜はビリビリ族の村で歓迎の宴があった。


 だが、モモンたちボルベル族は楽し気だったが、ビリビリ族は、複雑な表情を浮かべていた。


(支配されている側からすれば当然か。長居は無用だな)

 翌日、ドドンの木をラマで持ち運びやすいように加工する。

 もう一泊してから、ヒイロたちはビリビリ族の村を出た。

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