第11話 新大陸農家の実績
冒険している間、畑をカルロッタが世話をしてくれた。おかげで、立派にラディッシュが畑に実った。さっそく、一株を抜いてみると、真っ赤な地下茎が姿を現す。
「おお、実っている、実っている。さて、収穫するぞ」
畑に実ったラディッシュを次々と引き抜いて収穫していく。畑は縦十m、横十mとそれほど広くないので、収穫は一時間も掛からなかった。収穫したラディッシュは百㎏ほどになった。
パオネッタとカルロッタがラディッシュを井戸水で綺麗に洗い、塩漬けにする。
ヒイロは加工作業を見ながら首を傾げた。
「おかしいな。新大陸で作物を植えて収穫したのに、実績の解除にならない。なにがいけないんだ?」
実績の情報なら、実績お婆さんに訊くに限る。
ヒイロはラディッシュの塩付けをお土産に、実績お婆さんが住む家に向かった。
実績お婆さんは畑仕事をしていた。だが、ヒイロを見ると手を休める。
「これ、家で採れたラディッシュの漬物です。さっき漬けたばかりだから、もう数日置くと、美味しくなると思います」
実績お婆さんは機嫌もよく訊いてくる。
「ありがとう。でも、ここに来た理由は漬物を配りに来たわけじゃないだろう。何か実績に関する内容を聞きに来たんじゃろう」
「ラディッシュを植えて収穫したのに、新大陸農家の実績が解除にならないんですよ。原因がわかりませんか」
実績お婆さんは、簡単に言ってのけた。
「そんな話かい。新大陸農家の実績を解除するには、新大陸でなる作物を植えて、収穫しないと実績の解除にならないね。ラディッシュじゃ駄目さ」
「そうなのか。ありがとうございます」
「ちょいと、お待ち。獣脂が余っているんだけど、買っていかないか。金貨三枚でいいよ」
量にもよるが、獣脂が金貨三枚は高い気がした。だが、情報提供料と思い、買った。
村にモモンが来ていたので、声を懸ける。
「相談に乗ってもらえるかな。この大陸で育て易い作物って何?」
モモンが人当たりの良い顔で教えてくれた。
「一番育て易い作物はマシュリカっちゃね。マシュリカは放って置いてもぐんぐん伸びるちゃっよ」
(マシュリカか。実物を見た経験はないけど、あれは麻薬だからな。村で育てるわけにはいかないぞ)
「マシュリカ以外で他に簡単に育つ作物は、ないかな? なにかあるだろう」
「マシュリカ以外っちゃか、となると、馬鹿豆っちゃね」
「何か、凄い名前の豆だな」
「豆の名前の由来は、どんな馬鹿でも育てられるところから来ているっちゃ。ただ、この馬鹿豆は酷く
せっかく植えるんだから、
「どれほど不味いのかが、気になるな」
「我々の主食はトウモロコシだっちゃ。でも、その年に凶作が見込まれる時には、馬鹿豆を撒いて飢えを
「救荒作物としての意味合いが強いのか。今度、村に来るとき、持ってきてくれないか」
モモンは明るい顔で請け負ってくれた。
「いいっちゃよ。お安い御用っちゃ」
モモンは三日後、馬鹿豆を持ってきてくれた。
馬鹿豆はインゲン豆に似て、鞘に入っていた。
乾燥させてある鞘を開けると、紫色の豆が現れた。豆は楕円形をしていた。
「これが、馬鹿豆ね。それほど不味そうには見えないけど」
「注意する点があるとすれば、生で食っちゃ駄目っちゃ。必ず火を通すか、乾燥させて食うっちゃ」
馬鹿豆を貰って、炒って、塩を振って食べる。
「不味くもないが、美味くもないな。保存食にはいいんだろうけど、日常では進んで食べる豆ではないな。でも、いいか、育て易いらしいから」
モモンが意外そうな顔で感想を口にする。
「育て易い事実は認めるっちゃが、進んで育てるとは背高族は変わっているっちゃね」
「お金を払うから、馬鹿豆を仕入れてきてもらっても、いいかな?」
「いいっちゃよ。
モモンは気分よく帰っていった。ヒイロは残った馬鹿豆を食べる気がしなかった、
本国から連れてこられた七面鳥に馬鹿豆をやる。七面鳥は嫌がらずに口にした。
(七面鳥が食うんだ。なら、馬鹿豆を栽培すれば、養鶏業を開拓の村でも興せるかもしれないな。バイソンの肉は運搬が大変だから、いいかもしれない。あとでミランダ村長に教えてやろう)
三日が経過する。ラディッシュから転作を考えて畑を耕していた。
モモンがやって来て、明るい顔で声を懸ける。
「馬鹿豆を買ってきたっちゃよ」
「ありがとう。助かるよ」
ヒイロが農業の手を休めると、晴天だった空が急に暗くなった。
何だ、と思いヒイロが上空を見上げると、青く光る物体が天に見えた。
目を凝らしていると、青く光る物体は、すぐに飛び去った。
青く光る物体が飛び去ると、空はまた晴天に戻った。
「何だったんだ、あれ?」
モモンを見ると、モモンは青い顔して震えていた。
「ヤシャシャっちゃ、ヤシャシャが出たちゃ」
ヤシャシャが何を意味するか、わからない。
だが、モモンの態度から、良くない事態が起きたのは、わかった。
「ヤシャシャってのは何だ? 詳しく教えてくれるか」
「ヤシャシャとは災いを呼ぶ龍だっちゃ。ヤシャシャが出ると、その年は凶作になり大勢の餓死者が出ると伝えられているっちゃ」
「出た時点で、凶作が確定なのか?」
「言い伝えによれば、夏の盛りまでにヤシャシャを倒せれば、凶作を回避できるっちゃ。でも、儂が知る限り、ヤシャシャを倒せた者は、いないっちゃ」
(きたねえ、二体目の伝説級の魔物。これ、実績解除がありそうだな)
「ヤシャシャの餌とか、弱点とかの情報って、わかるか?」
モモンは青い顔して首を横に振った。
「まさか、ヒイロはヤシャシャを倒すっちゃか? 無理だっちゃ」
「無理だとは思っていない。倒すつもりで訊いている」
モモンは深刻な顔をして意見を述べる。
「本来なら、行かせたくないだっちゃ。だが、これは我が部族だけに関わる問題じゃないっちゃ。わかったっちゃ、なら、ヤシャシャに関する情報を調べてみるっちゃ」
「よろしく頼むよ」
モモンが帰ったあとに、パオネッタが戻ってきた。
「今度はヤシャシャと呼ばれる伝説級のモンスターと戦う展開になりそうだ」
パオネッタが浮かない顔で質問してくる。
「ヤシャシャって、さっきの空を飛んでいた青い光?」
「凶作を呼ぶ龍なんだと。夏までに倒せないと、この一帯は凶作だそうだ」
パオネッタは真面目な顔をして、意見を述べる。
「だとすると、相手は幽冥龍ね」
「知っているのか、パオネッタ?」
パオネッタは真面目顔のまま危険性を告げる。
「詳しくは知らないわ。文献で少し
「だろうね。モモンも、伝説の存在だと騒いでいたからね。でも、実績解除にならない雑魚より、実績解除になる伝説級の魔物と、俺は戦いたい」
「残酷なようだけど、実績解除に尻込みする人間なら、私は相棒には選ばなかったわ」
「よし、決まりだ。ヤシャシャを倒そう」
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