第10話 饗宴のマシュリカ酒

 ヒイロとパオネッタは再び宿屋で夕方まで待たされる。

 夕方になると、明るい顔のモモンがやってくる。


「他国の使者を持て成す宴席があるっちゃ。出席してくれないっちゃか」

(饗宴を受けるのも仕事のうちだからな。ボルベル族の料理をご馳走になるとするか)


「ありがたく受けるよ。異国の料理は楽しみだ」

 モモンは街中にある料理屋に二人を案内し、申し訳なそうに語る。


「本当は宴会をお城で開きたかったっちゃ。だが、ボーモン国王が渋ったっちゃ。なので、街一番の料理屋になったっちゃ。許せだっちゃ」


「そんな些細な変更は気にしないよ。要はこれから、仲良くなっていけばいいだけだ」

「そう優しく言っていただけると、嬉しいっちゃ」


 モモンが連れてった場所は街の大通りに面した二階建ての料理屋だった。二階席は 六十席と小さいが、出席者が四十人前後だったので、狭くはなかった。


 モモンは知り合いがいたのか、席を外して挨拶に行く。

 テーブルの上には、すでに前菜が用意されていた。


 ヒイロとパオネッタが座った。給仕から、木のジョッキに入った飲み物が提供された。

 ヒイロは飲み物に軽く口を付けようとする。


 すると、パオネッタに服を軽く引っ張られた。

 パオネッタが胸のところにあるペンダントを左手で握って、ひそひそ声で話す。


「飲まないほうがいいわ。このお酒は危険よ。麻薬の気配がするわ」

「国王たちが俺たちを麻薬漬けにして、国から出さないようにしようとしているのか」


 パオネッタが真剣な顔で相槌を打つ。

「ボーモン王のことだから、可能性があるわね」


 飲み物に手を付けなかった。

 モモンが戻ってきて挨拶して乾杯の音頭を取る。


 モモンが不思議そうな顔をして訊いてくる

「どうしたっちゃ? 客人が料理に手を付けないと、皆が手を付けづらいっちゃ」

「悪いが、この酒は俺たちの口に合いそうにない」


「マシュリカ酒は嫌いだっちゃか? ならわしが貰うっちゃ」

 モモンがヒイロのジョッキをモモン自身の前に置くと、別の飲み物を注文する。

 新たに運ばれてきた飲み物は、真っ赤な酒だった。


 パオネッタが頷いたので、口にする。味は酸味と甘みが混じる葡萄酒だった。

 パオネッタも同じ葡萄酒を頼み、飲み物を交換した。


 宴が進んでわかった。

 ボルベル族が飲む酒は皆、二階にある大きな樽から給仕が汲んで運んでいた。


 モモンはヒイロが飲まなかったマシュリカ酒を普通に飲んでいた。

 モモンが席を外したときにパオネッタに訊く。

「同じ樽からマシュリカ酒を汲んで、皆が飲んでいるな。俺たちのマシュリカ酒も、あの樽から汲んでいたぞ」


 パオネッタが表情を和らげて解説する。

「どうやら、マシュリカ酒には麻薬成分が入っているけど。ボルベル族にはほとんど害がないみたいね。体質の違いってやつかしら」


 いささか気分が楽になった。

「つまり、先ほどの麻薬入りの酒だと思ったのは、普通の酒だった。ボルベル族には問題ないから客人にも出したって対応か」


「そうなるわね。よかったわね。敵意がなくて」

「でも、これは注意だな。ボルベル族と付き合うと麻薬入りの酒が開拓村に入ってくるかもしれない」


 宴席は和やかなムードの内に終わった。

 翌日には、モモンが迎えにくる。モモンは十人の人足を連れていた。


 人足は背負い梯子に酒樽を載せて担いでいた。

 モモンが機嫌よく伝える。

「ボーモン王からの贈り物だっちゃ。贈り物はマシュリカ酒だっちゃ」


 ヒイロは正直な感想を口にした。

「勝手に入植して、贈り物まで貰うなんて、悪いな」


「我が部族では引っ越し祝いのお返しに飲料を贈る習慣があるっちゃ。一般的にはマシュリカ酒を送るのが慣例だっちゃ。バイバイの首のお返しに受けとるっちゃ」

「でも、河原は歩き辛いだろう。人足さんも大変だろう」


「実は黙っていたが、開拓村の近くまで隠された道があるっちゃ。ボーモン王の許可が出たので、その道を使うっちゃ」


 モモンに先導されホムホムの街を出る。

 街を出ると西南西へと続く細い道があった。道は舗装されてはいなかった。されど、しっかりと踏み固められており、歩きやすかった。行きに三日も掛かったが、帰りは道のおかげで一日半で村に着いた。


 ミランダ村長に報告する。

「ボルベル族のボーモン国王は開拓の村の存在を認めてくれました。ただし、敵対すればこの限りではないと釘をさされましたが」


 ミランダ村長はとても喜んだ。

「いやあ、よかったわ。お隣と不毛な争いは、したくなかったところよ。一安心よ」

「また、首都へ繋がる道も教えてもらいましたから、交易も可能でしょう」


 ミランダ村長はホムホム繋がる道の存在も喜んだ。

「それも嬉しいわ。交易ができれば、開拓村は豊かになる。本国に嬉しい知らせができるわ。ヒイロさんを使者として送ってよかったわ」


「ボルベル族からの贈り物はマシュリカ酒です。マシュリカ酒はボルベル族にとっては何ともないです。でも、俺たちには麻薬効果にあるので飲めません」


「別に問題ないわよ。間違って飲まないように印を付けて保管しておくわ。ボルベル族のお客さんが来たときに開けるから」


 ミランダ村長と別れると実績お婆さんさんの家を訪ねる。

「実績を解除したので、称号の授与をお願いします」


 実績お婆さんが呪文を唱えると、頭がほのかに温かくなる。

「称号ボルベル族の友は装備するとマシュリカ酒の麻薬効果を無効にするね。称号を装備していくかい?」


「今は世界の探求者のままで、いいです。まだまだ、新大陸で実績を上げないといけませんから」

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