第9話 ボルベル族の国王との面会
翌日、モモンがやってきた。モモンは困った顔で切り出した。
「まずい事態になったっちゃ。国王のボーモン様がヒイロの能力に疑いを持ったっちゃ。ヒイロが土産に持ってきたバイバイの首を偽物だと疑っているっちゃ」
「そりゃないぜ。喜ぶと教えてくれたから、苦労してバイバイの首を持ってきたんだぜ。どうにかとりなしてくれよ」
「わかっているっちゃ。まさか、国王が疑うとは思っていなかったちゃ。誤算だっちゃ」
(これは最悪、出直しかな? でも、戦争が近いんだよな)
「どうすりゃいいんだ? やっぱり、何か豪華な貢ぎ物を持ってこなくちゃ、いけないのか? 今から間に合うかな」
「いいや、現段階では、貢ぎ物では国王の機嫌は取れないっちゃ。ここはヒイロが本当の実力者であると、戦って示さなければいけないっちゃ」
(これは出直しより楽だな。何かを倒して解決するなら、そのほうが簡単だ)
「何だ、戦えばいいのか。そのほうが気楽だな。なら、戦うよ」
モモンが厳しい表情で忠告する。
「ヒイロがやると申し出るなら止めないっちゃ。だが、油断はするなっちゃ」
ヒイロはモモンに連れられて、宿屋を出る。
舗装された石畳の上を歩いて行く。商店や民家が見えるが、石造りの建物は皆、人間サイズに造られていた。
(パオネッタが予想した通りだな。建物は人間サイズだ。やはり、昔は、この街に人間がいたとみていいな)
モモンは街の中心にある二階建ての円形闘技場にヒイロを案内した。
円形闘技場の舞台となる空間は、直径が二十五mあった。丸い闘技場の四箇所には高さ二十mのポールが設置してあった。
二階の貴賓席には立派な黒い髭を生やしたボルベル族の男がいた。
モモンが、そっと耳打ちする。
「あそこにおるお方こそ、ボルベル族の国王ボーモン様である」
ボーモン王は立派な赤い衣装を着て、
ボーモン王が席に座って真剣な顔で告げる。
「そのほうが悪魔バイバイを倒した者っちゃか。嘘を吐くと成敗するっちゃっよ」
(国王も俺たちの言葉を喋れるんだな。ボルベル族の知識人って、俺たちの言葉が喋れるのが普通なら、嬉しいんだけど)
「畏れながら国王様。俺がバイバイを倒したのは事実です」
「ならば、その実力を見せてみるっちゃ」
ボーモン王が軽く右手を挙げる。舞台に二十人からなるボルベル族の兵士が入ってくる。
ボルベル族の兵士は、曲刀を持っていた。モモンが慌てて下がる。
「パオネッタは、モモンと一緒にいてくれ。俺一人で充分だから」
「わかったわ。ヒイロなら問題ないでしょ」とパオネッタが明るい顔で告げる。
ヒイロはボルベル族の兵士を殺さないようにアルテマ・ハンマーを出す。
ヒイロがアルテマ・ハンマーを出すと、兵士は襲い掛かってきた。ボルベル族の兵士の動きは一般的な人間と比べると、すばしっこかった。されど、ヴォルフやバイバイに比べれば、停まっているに等しかった。
ヒイロはアルテマ・ハンマーを振り回し、次々とボルベル族の兵士を吹き飛ばしていく。
(これ、楽勝だな。実績もなさそうだから、さっさと片付けるか)
ものの五分で兵士は全員が動けなくなった。
ヒイロは
「ボーモン王よ。これでよろしいでしょうか」
ボーモン王は顔を
「まだっちゃ。まだ始まったばかりっちゃ」
倒れた兵士が運び出される。危険を感じたモモンも一緒に退出する。
闘技場にある檻が開く。中から全長二mのライオンが二頭、現れる。
ボーモンが自信たっぷりな態度で命じる
「さあ、あのライオンを倒してみるっちゃ」
ヒイロはライオンなんて倒しても実績に結びつかないと思ったので、武器を消した。
ヒイロはライオンを睨みつけて近づく。
ライオンは後ずさりしたと思うと、腹を見せて寝転がった。
(このライオン。俺の実力がわかるんだな。可愛い奴だ)
ヒイロはライオンを見ながらボーモンに尋ねる。
「ボーモン王、これでよろしいでしょうか?」
ボーモン王は険しい顔で、むむっと唸る。
「まだじゃ、まだ次があるっちゃ。今度が本番っちゃ」
ライオンが猛獣使いに連れられて、檻の中に戻っていった。
闘技場に設置されてあるポールが光る。
高さ二十mの光のフェンスができて、闘技場の舞台空間を覆った。
ボーモンが立ち上がり、見下した顔で告げる。
「次に勝てたら、ヒイロっちゃよ。お前を認めるっちゃ」
ボーモン王が宣言すると、闘技場の檻が再び開く。
檻が開くと胴回りが八十㎝はある、全長八mの茶色の大蛇が現れた。
大蛇はヒイロを餌だと認識したのか、赤い舌をちろちろ出す。大蛇はゆっくりとヒイロに近づいてきた。
(蛇系のモンスターなら、もっとでかい頭が複数あるのと戦った経験がある。これも倒せて当たり前だな)
ヒイロはアルテマ・ソードを出すと大蛇が近づいて来るのを待った。
大蛇が鎌首を持ち上げて噛み付いてきた。
ヒイロはひょいと躱して、蛇の首に渾身の一撃を打ち込んだ。
大蛇の首が飛んで、貴賓席側に飛んでいった。
大蛇の首は光るフェンスに当って止まった。
ボーモン王は顔を真っ青にしていた。
ヒイロはボーモン王を見上げて尋ねた。
「勝ちましたが、これで、よろしかったでしょうか」
ボーモンは席にどさりと座って発言する。
「いいだっちゃ。バイバイの首が本物だと信じようっちゃ。開拓村が遅くなったが挨拶をしに来たのも認めるっちゃ」
大事な内容なのできちんと確認しておく。
「順序が逆になりましたが、開拓村の設置を許して貰えるんですね」
「国王から国王に宛てた親書がない状況は、遺憾に思うっちゃ。だが、我は懐が深いっちゃ。もうすでにできた村を撤去せよとは、命じないっちゃ。村は認めるっちゃ」
「ありがとうございます」
ボーモンは苦い顔で付け加える。
「ただし、首都の西側にいきなり入植地ができた事態を不快に思う事実だけは伝えておくっちゃ。それと、もしボルベル族と敵対するのであれば、村は力尽くででも撤去するからそう思うっちゃ」
ボーモン王は不機嫌な顔で退出した。
頭の中でファンファーレが鳴り響く。
「ボルベル族の国王に認められし者の実績を、解除しました。称号ボルベル族の友を獲得しました。神殿で称号を受け取ってください」
(やはり、国王がらみの実績があったか。とりあえず、また一個、実績が取れたな。これで四十個目。残り六十八個)
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