第12話 ヤシャシャ討伐
モモンが再び開拓村に現れたのは、七日後だった。
「遅かったな。調べ物に難航したのか?」
モモンがむっとした顔で意見する。
「これでも早いほうだっちゃ。事件は国全体に関わる話だから、皆に協力してもらったっちゃ。でも、大して有益な情報は、わからなかったっちゃ」
「わかったとこまでで、いいよ。この手の討伐は、事前情報があるとないでは、大違いだからな」
「ヤシャシャはサバナに咲く命の花を、食べるっちゃ。命の花は、輝く丸サボテンに咲く花っちゃ。輝く丸サボテンは朝日を浴びると輝きを放つサボテンだっちゃ」
パオネッタが理知的な顔で語る。
「聞いた覚えがあるわ。幽冥龍の体から落ちる粉は、たいての植物を枯らす毒なのよ。でも、稀に生命力が強い草花は残るの。輝く丸サボテンが、そうなのね」
(餌はわかった。これで罠が張れる)
「他にわかった情報はあるか?」
モモンが厳しい顔で説明する。
「ヤシャシャにはあらゆる武器は通用しないっちゃ」
「それも記憶にあるわね。幽冥龍の全身は硬く、並の武器ではどこも狙っても通用しないそうよ。伝承によると、一万本の矢をもってしても傷つかなかったそうよ」
モモンが意外そうな顔をして付け加える。
「我が部族に伝わる情報では、違うっちゃ。武器が通用しないヤシャシャだが、眉間には矢が刺さったとの伝承が残っているっちゃ」
(一万本の矢を受けたのなら、眉間にも矢は当っているはず。モモンの情報が間違いとも思えない。とするなら、何かの条件を満たすなら眉間に攻撃が通るのか)
「パオネッタの知識と違うな。だが、覚えておこう。他に有益な情報はあるか?」
モモンは真剣な顔で忠告する。
「ヤシャシャは怒ると、全身が赤く
(広範囲に及ぶ即死級の攻撃があるのか。これは、討伐に失敗すると、死ぬな)
「剣で戦う以上、近い間合いの戦いになるのは避けられない。爆発が来たら、終わりか。怒らせる前に眉間を狙って倒せればいいが、失敗した時が困難だな」
モモンが不安な顔で尋ねる。
「ここまで教えておいて何だけど、本当にやるっちゃか。馬鹿豆を植えて一年を過ごす気は、ないっちゃか。ヤシャシャがいなくなるまで待つのも、知恵っちゃっよ」
「いや、俺はやるよ。入植地と友人のボルベル族を守るために」
(本当は実績解除のためなんだけどね)
まず、戦うに適した場所を探す。パオネッタには、ヤシャシャを空に逃がさないようにするための拘束用の魔法陣を設置してもらった。
魔法陣を設置する間に、ヒイロは仲間の冒険者に手伝ってもらって、輝く丸サボテンを探す。
花の咲いた輝く丸サボテンを、根元から掘り起こして隠しておく。近くに隠れて監視するための監視小屋も、二つ作っておく。
三日後には拘束用の半径二十五mの大きな魔法陣が完成したので、パオネッタに尋ねる。
「魔法陣の効果時間はどれくらい?」
パオネッタは冴えない顔で教えてくれた。
「相手は幽冥龍だから、三分も
「短期決戦か。そのほうが、気は楽でいいや」
「実績解除が絡む以上は、私は止めないわよ。私の研究にも影響するからね」
「馴れ合いは必要ない。心配も無用だ。俺たちは、互いに思いやりつつも目的を持つ者同士だからな。目的が第一だ」
魔法陣の中央に、輝く丸サボテンを纏めて置く。監視小屋の一つにヒイロが入って、もう一つにパオネッタが隠れる。
朝から隠れて待っていると、昼になる。晴れた日の昼なのに、急に暗くなった。
来たか、と身構える。全長十五mの青白い姿をした龍が、輝く丸サボテンの前に下り立った。
ヤシャシャで間違いないと思った。
ヤシャシャは警戒せずに、命の花を食べ始める。ヤシャシャを囲むように。地面が赤く光る。半径二十五m、高さ六mの、円柱状の拘束用の結界が完成した。
ヤシャシャは結界が完成しても暴れない。ヤシャシャは悠然と命の花を食べていた。
ヒイロは好機と見てアルテマ・ソードを出す。武器を手にヒイロは監視小屋から駆け出した。ヤシャシャの間合いに入る。
ヤシャシャが面倒臭そうに、手でヒイロを払い除けようとした。
ヒイロは攻撃を掻い潜った。ヤシャシャに肉薄して眉間に一撃を入れた。
金属が硬い金属に当る音がして、剣が弾かれた。
ヤシャシャの顔が急に不機嫌に歪む。ヤシャシャがヒイロを仕留めようと、噛み付きや爪での攻撃を繰り出してきた。
ヒイロは機敏に攻撃を避ける。ヒイロはヤシャシャから半時計周りに動いて攻撃を繰り出した。
脇腹、翼、尻尾、尻、首筋へと、攻撃がヒットする。だが、いずれの攻撃もヤシャシャの硬い体を傷つけることができなかった。
(アルテマ・ソードが、まるで通用しない。全身が硬い鋼のようだ。こいつに攻撃が通用するようになる条件は、何だ?)
ヤシャシャは素早く動き回るヒイロに翻弄されていた。距離を取ろうにも拘束用魔法陣のせいで距離をとれない。また、空から一方的に攻撃しようにも、これもできない。
攻防は、決め手がないヒイロと、身動きが極端に制限されるヤシャシャの戦いになっていた。
しばし、どちらも有効打がない戦いが続く。
ヤシャシャが結界の壁に当るたびに、結界からじりじりと嫌な音がする。
(まずいな。結界が限界を迎えつつある。空に逃がしたら奴を仕留める術がない)
ヒイロは一度、大きく距離を空けた。剣に体重を乗せた突進突きをヤシャシャに浴びせようと思った。
距離を空けると、ヤシャシャがヒイロに逃げられるとでも勘違いしたのか、怒りの咆哮を上げた。ヤシャシャの青い体が、みるみる赤くなっていく。
(広範囲の極大威力の攻撃が来る前兆だ)
突進突きを止めてそのまま走れば、ヤシャシャの範囲攻撃を避けられる。だが、ここで、頭に閃きが過ぎる。
(ヤシャシャに攻撃が通るようになる条件。それは、体の色が変わった時かも)
突進するか、逃げるか、選択を迫られた。
迷っている暇はなかった。ヒイロは閃きに賭けた。ヒイロはヤシャシャに向かって駆け出した。
ヤシャシャが、ヒイロの突進攻撃を受けてはまずいと思ったのか、立ち上がろうとした。
だが、結界がまだ残っているので、立ち上がるには不十分だった。それでも、ヤシャシャの頭はヒイロの剣の間合いから出た。
ヤシャシャが頭を庇っている態度は明白だった。ヒイロは、読みが当っていると思った。
(やっぱりこいつ、最大火力の範囲攻撃をする時に体が柔らかくなるんだ。しかも、攻撃は、一度、準備に入ると、止められない。問題はヤシャシャの頭までの距離だ。ヤシャシャの頭までは跳び上がれない)
突進を中止しようと思わなかった。無理に跳び上がって威力のない攻撃をしようと考えなかった。
最悪、どうにかヤシャシャの体を駆け上がって、眉間に一撃を入れるつもりだった。
ヤシャシャの体は見る見る赤くなり、爆発へと近づいていく。
すると、ヤシャシャの体の前に、光る急な上り階段が現れた。パオネッタの機転だった。
ヒイロは
ちょうど、ヤシャシャの頭の位置に剣が届く高さに来た。ヒイロは全ての力を込めて、ヤシャシャの眉間にアルテマ・ソードを叩き込んだ。
剣は深々とヤシャシャの眉間にめりこんだ。
ヤシャシャの瞳から、光が消える。やったかと思うと、ヤシャシャの体が光り、爆発した。
遠くなる意識の中、ファンファーレを聞いた。
「災厄の龍を狩りし者の実績が解除されました。アルテマ・ボウが使えるようになりました。神殿で褒賞を受け取ってください」
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