第6話 ボルベル族との接触
挨拶に行くのには、手ぶらで行くのは気が引けた。だが、お土産にワインは
それに、ボトル・ワインでは、運搬中に壊れるかもしれない。
チーズは香りによっては嫌われる。パスタも考えたが、狩猟民族なら麺を食べる習慣がない気がした。
結果、まずは様子見で、バイソンのベーコンを背負い袋に入れて持っていってみる決断をした。
ヒイロとパオネッタは家をカルロッタに任せると、東の森に足を踏み入れた。
進む道は村の近くを流れる河に沿って北上する。河原は両側に背丈まである草が伸びており、木々も生えている。
森に潜む者がいれば、河原を歩くヒイロとパオネッタは、丸わかりだった。だが、ヒイロやパオネッタから潜む者は見えない。
一日目は問題なく過ぎる。
だが、二日目の夜にはどこからか見られている視線を感じた。
「原住種族かな。襲ってくるかな?」
「当然だけど、歓迎されていないみたいね」
そのまま食事をしていると、ヒイロとパオネッタを見張る視線の数は増えていった。
時折、不自然な灯もちらちら見えた。
「これは襲ってくるな。寝た振りをして誘ってみるか」
「そうね、寝込みを狙ってくるだろうから、試してみる?」
パオネッタがそっと先に横になってから、矢を防ぐ魔法を発動させる。
ヒイロも横になる。黙って敵が仕掛けるのを待った。
外の空気がピリピリしてくる。ヒュンヒュンを音がして、矢が飛んできた。
だが、矢は、パオネッタが掛けていた魔法で逸れる。ヒイロは立ち上がった。吹き矢が何十と飛んできた。だが、これもパオネッタの魔法が防いでくれた。
アルテマ・ソードを出す。ヒイロはわずかに灯が漏れる方向に駆けてゆく。そこには身長が百四十㎝の、大きな木製の仮面を被った、土気色の肌をした種族がいた。種族は動物の革で作った粗末な革鎧を装備していたが足は裸足だった。
ヒイロは明かりを持った原住種族の首筋を手刀で打つ。灯を持った原住種族を倒すと、辺りは真っ暗闇になる。すると、原住集種族が森の奥に撤退していく足音がする。
ヒイロは暗闇に残る灯を頼りに原住種族を探し、合計三人を気絶させた。後はアルテマ・ソードを消して、三人をパオネッタの元に連れ行く。
「さて、どうしたものか」と見下ろしていると、三人はゆっくり目を覚ました。
三人はヒイロとパオネッタを前にすっかり怯えていた。
すると、三人のうち一人が口を開いて、ヒイロのわかる言葉で話し出した。
「
「おまえ、俺たちの言葉がわかるのか」
原住種族は恐々とした態度で名乗った。
「儂の名はモモン。ボルベル族の言語学者だっちゃ」
「俺はヒイロ。ここから西にある入植地からやってきた人間だ。こうした乱暴な出会いになったが。俺たちはボルベル族と友好を結びたい。これは偽らざる心境だ」
モモンはびくびくしながらも要求した。
「なら、儂以外の二人を即刻解放するだっちゃ」
「いいぜ。ほら、行いきな」とヒイロは促すと、モモン以外の二人は暗闇に駆けて行った。
「友好の印にバイソンの肉を持ってきたが、食べるか」
「いただくちゃ」とモモンが警戒しながら答える。
バイソンのベーコンを炙って、お茶と共に提供した。
モモンは仮面を外す。モモンは真っ白な髪と真っ白い髭をしていた。モモンの年齢は五十代くらいの男性で彫りの深い顔をしていた。
モモンは
「高背族の者よ。何が訊きたいちゃ? 軍の規模か? 兵の装備か? 将軍の数か? それとも我が国の弱点か、ちゃ」
(何か誤解しているな。誤解を解くのが先決かな)
「俺たちは戦争をしに来たわけじゃないんだ。そうだな、強いて言えば、どうすればボルベル族と友好を結べるかを知りたい」
モモンは強張った顔で、厳しい口調で言い放った。
「嘘を吐くなっちゃ。我が国の西にやって来たのも、これから大挙して我が国にやって来て、いずれは我が国を攻め取るためだろうちゃ」
ヒイロは正直に教えた。
「これから、人は多くやって来る」
「それを見たことかちゃ、我らの文化や生活も滅茶苦茶にする気だろうちゃ」
「そんな気はない。俺たちは誰もが好戦的ではない。互いに手を取り合って発展できるなら、それに越した未来はない」
モモンは、むむっと唸り持論を語る。
「儂も、もう背高族が来るのは止められないと思うちゃ。これから付き合っていくしかないと思うっちゃ。でも、儂のような考え方は少数派ちゃ」
「じゃあ、どうなるんだ?」
モモンは
「戦争は避けられないっちゃ。開戦は近いっちゃ」
「戦争を回避する方法は、ないのか?」
「ならば、まずお前たちの中で身分の高い者に会わせるちゃ」
(妥当といえば、妥当な要求だな)
ヒイロはモモンを連れて、開拓村に帰った。
村人はモモンを見て驚いた。話ができると知ると、なお驚いた。
ヒイロはミランダ村長の家に行き、ボルベル族のお客さんを連れてきたと告げる。
ミランダ村長は、とても喜んで、お茶とクッキーで持て成した。
だが、モモンはミランダ村長の出したお茶とクッキーには手を付けなかった。
「背高族より話があると聞いて来たっちゃ。何ゆえ、勝手に我が領内に入植したちゃ」
「知らなかったんですよ。近くにあなたがたボルベル族が住んでいるなんて」
モモンが果敢に宣言する。
「我々は戦いになっても負けないっちゃ。必ずや戦いに勝利するっちゃ」
ミランダ村長は穏やかな顔で意見を伝える。
「私たちは入植してきましたが、戦争をする意思は全然ありません。本当ですよ」
「何を怪しい言葉を、そんな甘い言葉で騙して増援を待っているちゃね」
「違いますよ。本当にそんな意思を持ってないんですよ」
ヒイロから気になった情報を訊く。
「ここは、譲れない場所なのか?」
「実をいうと、海岸付近なら問題ないちっゃ。入植地も、ボルベル族が住む東ではなく、南のサバナに広げるのなら問題ないっちゃ。でも、それは、きちんと挨拶をしてきた場合ちゃ」
ミランダ村長は真面目な顔で申し出た。
「わかりました。では、遅くなりましたが、これから挨拶の使者を出します」
「人間の国王からの使者を出すっちゃ。使者に奴隷百人を持たせて、土産に差し出すっちゃ」
ミランダ村長が困った顔で告げる。
「それは無理です。我が国で奴隷制は撤廃されております。それに、国王の親書を手に入れるのでも時間が掛かります」
パオネッタが表情を曇らせて教えた。
「ミランダ村長、事態は悠長なことを言っていられないですよ。戦争が迫っています」
「戦争が近いですって! あったま痛いわい」
ヒイロには予感があった。
(これ、あれだな。モモンと接触して実績が解除されなかった。なら、もっと上の国王なら、どうだろう。実績解除にならないかな?)
「ミランダ村長。よかったら俺が、ちょっとボルベル族に使者として行って交渉してきましょうか。交渉力には自信があります」
ミランダ村長の顔が晴れ渡る。
「本当に行ってくれるの? 助かるけど、難しい交渉よ。大丈夫?」
「何とかなるでしょう。任せてください」
モモンの表情は険しい。
「どうしても行くちゃか?」
ミランダ村長ははっきりと告げる。
「ええ。全ては、戦争を阻止するためです」
モモンが思案顔をしてヒイロに尋ねる。
「お主、剣の腕には自信があるちゃっか?」
「それなりに、世界最強に入るくらいには」
モモンは真剣な眼差しを向けて、アドバイスした。
「なら、サバナの悪魔バイバイを倒して首を持ってゆくっちゃ。さすれば国王とて認めるっちゃ」
「何だ。奴隷は要らないんだ。こっちのほうが楽そうだ」
モモンは口から泡を飛ばして指摘する。
「馬鹿を言うなっちゃ。バイバイは強いっちゃ。誰もバイバイを倒せた者はいないっちゃ。それゆえ、バイバイの首に価値があるっちゃ。バイバイに手を出した者は帰れないゆえにバイバイと名が付いたっちゃ」
(あ、これ、バイバイを倒すと、実績が付くかもしれないな。こういう名前の由来のあるモンスターって実績が絡む展開が多いからな)
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