第5話 開拓村を取り巻く状況

 カルロッタと別れて村の酒場に行く。村には酒場が一軒だけあった。

 酒場といっても、厨房と食品庫だけが壁で覆われており、屋根の下にカウンターがある造りで、ほぼ露天と一緒だった。


 肉料理とワインを注文する。肉もワインも貴重品なのか、西大陸の三倍の値段がした。

「無事に着いたことを神に乾杯」


 二人で遅めの昼食を摂る。肉料理を食べながら、パオネッタが尋ねる。

「それで、まず、これからどうするの」


「新大陸農家の実績があるから、まず何か適当に作物を植えて収穫する。育つのが早いラディッシュなんか、いいだろう。冒険の間に手入れをしてくれる人が必要だが、探せば見つかるだろう」


 パオネッタが機嫌よく応える。

「生産系と職人系は手間が掛かるものが多いものね。終えられるなら、最初のうちに終えておいたほうがいいかもしれないわ」


「あと、家も建てる。勘だけど、家の建築も隠された実績にある気がする。予想の範疇はんちゅうをでないけど」


 パオネッタが少々意外だとばかりに尋ねる。

「家の建築なんて、できるの? ちょっと感心」


「そんな凝った家を建てなければ、俺にだって建てられる。図面の引ける奴に図面を描いてもらって、製材所で木を切ってもらう。組み立てだけやる。土地の代金は海賊船の財宝の残りを当てればいいだろう」


 パオネッタは思案する。

「ここを拠点に活動するなら、家はあったほうがいいわね。なら、畑と家の建築は任せるわ。その間に私は、新大陸の情報を調べるわ」


(パオネッタにはパオネッタが得意な仕事をしてもらおう)

「決まりだな。なら、さっそくミランダ村長から土地を分けてもらおう」


 ヒイロは翌日にミランダ村長に会う。

「ミランダ村長、家と畑を作りたい。土地を売ってもらえるか?」


 ミランダ村長は愛想よく応じた。

「いいですよ。区画割りは終わっていますから可能です。どの程度の広さが必要ですか」


「家は二LDKもあればいい。畑も本格的に農業をやる広さは要らない。冒険に行っている間の、ちょっとした時間に収穫できる作物を植えられればいい」


 ミランダ村長は地図を指し示して訊く。

「なら、村の南側はどうでしょう。日当たりがいい場所が残っています」


「値段は?」と訊くと、こっちは肉やワインと違って、かなり安かった。

 土地を購入して、ミランダ村長宅にいる役人に登記を頼む。


 その足で、製材所に行く。

「家を建てたいから、図面を引ける奴を紹介してくれ。あと、雑用係の紹介も頼む」


 製材所の髭面の親方が、渋い顔で忠告する。

「兄ちゃん、自分で家を建てる気かい? 家を建てる仕事は重労働だぜ」

「体を動かすのなら、慣れている。それに、そんな凝った家を建てるわけじゃない」


 製材所の親方は親切に申し出た。

「ここは開拓地だから、自分で何でもできないと困る。だが、無理なら遠慮なく助けを求めろ。助け合わなきゃ、村はできない」


「わかった。ありがとう」

 図面を引ける建築士を紹介してもらい、希望を告げる。


 図面ができるまでの間に畑を耕して、柵で囲った。

 簡単な図面なので、一日で引いてもらった。図面を元に、製材所に木材を発注しておく。


 大工の見習いを二人、借りてきて、家を建てていく。三角屋根を持つ二LDKの家は、十日で完成した。


 完成した木の家を見てパオネッタが感心する。

「素人が見習いを借りてきて建てたにしては、しっかりしているわね。これで、雨漏りがしなければ大したものよ」


 ヒイロは自信たっぷりに答える。

「雨漏りはしないよ。何せ、俺が建てた家だからな。もっとも、実績解除は当てが外れて明らかにならなかったけどな。なかった実績にこだわっても意味がない」


 パオネッタの気分は上々だった。

「いつも上手くいくとは限らないのが人生よ。でも、屋根のある生活っていいわ。読み書きに影響するからね」


 パオネッタが家の中に入ったので、ヒイロも家の中に入る。

「でも、冒険に行くなら、この家を管理する人間が必要だな。畑も荒れ放題にするわけにはいかない。誰かいい人を村長に紹介してもらおう」


「それなら、候補を見つけておいたわ。カルロッタよ。魔法で称号を確認したけど、ハウス・キーパーと農婦の称号があったわ」

(実績解除時の称号持ちなら、素人ではない。だが、カルロッタか)


「称号だけ見ると、適任だけど。カルロッタって何か隠しているぞ」

 パオネッタは特に気にした様子がなかった。

「新大陸に渡ってくる連中なんて、みんな訳ありよ。贅沢は言っていられないわ」


「パオネッタが推薦するなら信用するか。それで、村を取り巻く情報はどうなんだ?」


 パオネッタが明るい表情で教えてくれた。

「村の東には森があるわ。森の奥には知性を持つ原住種族がいるわよ。何でも毒を使った道具で狩猟すると聞くから、それなりに文化水準は高いみたい」


「友好的なのか?」

 残念とばかりに、パオネッタは首を横に軽く振った。

「ミランダ村長は友好関係を築きたいけど、あまり上手くいってないわね」


「村の南側はどうなっているんだ?」

「村の南には沼地を持つサバナが広がっているわ。こっちは、原住種族がいないみたいだけど、危険な獣の生息地ね」


 酒場で食べた肉を思い出す。

「開拓村に着いた時に喰った肉。あれも、サバナ産なのか?」


「バイソンの肉ね。西大陸にいる牛に似た動物よ。気性はおとなしい。けど、怒らせると襲ってくるわ」


「サバナからここまでは距離があるから、肉を運搬するのも、一苦労か。北には何がある?」


 パオネッタの表情が、ちょいとばかし曇る。

「北に行くと急激に寒くなるわね。それで、針葉樹の森があるわ。この針葉樹の森の奥にも原住部族が住んでいるって話よ」


(段々と村が取り巻く状況が見えてきたな)

「現状はわかった。村が望むとすると、近所の原住種族に挨拶に行く仕事を受けるか。それとも、バイソンを狩って食糧の供給を安定させるか、だな」


「ヒイロはどっちに行きたい?」

「バイソン討伐って、実績がなさそうだ。あるとしたら、原住種族絡みだ。だから、東の森の原住種族との接触をやりたい。実績が第一だ」


「そういうだろうと思って、ミランダ村長から原住種族との接触の仕事を引き受けてきたわよ」

「さすが、パオネッタだ。わかっている」

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