第7話 悪魔バイバイ

 モモンにバイバイの詳しい姿を訊く。モモンは残念そうな顔で首を横に振った。

「悪魔バイバイに遭って帰ってきた者は非常に少数だっちゃ。生還者の話を聞くと、バイバイは獅子の顔を持ち、大きな翼のある巨人だと聞いているっちゃ。だが、それ以上は、わからないっちゃ」


 サバナの地図は、まだ、ほとんどできていない。

 バイソンを狩りに行って肉を調達してくる年配の冒険者に話を訊く。


 年配の冒険者は表情を曇らせて語る。

「サバナに調査に入った冒険者が何人か、帰ってきていない。だから、サバナには恐ろしい猛獣がいる、ってのが、俺たちの考えだった。だが、まさか悪魔が棲んでいるとはな」


「危険な場所だが、だいたいでいいから、わからないかな?」

「感覚的にはわかる。近くまで案内できる。だが、あとは地道に足で探すしかないぞ」


「わかった。近くまででいい。案内してくれ」

サバナは若草色の背の低い草で覆われていた。時折ある樹木に葉は少なく、花は咲いていない。ガゼルなどの草食動物や兎などが、よく見られた。また、草をむバイソンの群れにも頻繁に遭遇した。


(村のすぐ南は、有用な食肉資源や毛皮の宝庫だな。開拓村の場所は恵まれている)

 一日を掛けて南下し沼地にぶつかる。沼地から南東に進む。

 沼地には、ピンクや黄色のカラフルな鳥が羽を休めている。また、河馬(かば)や鰐なども見られた。


 沼地が終わるところに行くと、年配の冒険者が足を止める。

 年配の冒険者が険しい顔で告げる。


「案内できるのは、ここまでだ。ここから先が、行方不明者の多発地帯だ」

「ありがとう。ここから先は、俺とパオネッタだけで行く」


 年配の冒険者が真剣な顔で激励する。

「仲間の仇を討って凱旋がいせんしてくれる展開を祈るよ」


 年配の冒険者が去っていったので、パオネッタとサバナを進む。

 サバナを進むと、村の南とは雰囲気が違った。バイソンが、まず見当たらない。兎なども、心なしか怯えて暮らしているようだった。ヒイロもモンスターの気配を感じていた。


「ここは空気が違うね。これは何かいるね」

「少なくとも、バイソンたちは、ここにいるのが危険と察知しているわ」


 パオネッタが何か魔法を唱える。

「あっちに、武具の反応が固まってあるわ。バイバイにやられた犠牲者の物ね」


 ヒイロはアルテマ・ソードを出して、いつでも抜けるようにする。

「よし、そっちに行ってみよう」


 歩いて行くと、縦五m横三m高さ一mほどの、大きな岩があった。大きな岩の上に身長二百二十㎝ほどの黒い人型のモンスターが座っていた。


 モンスターの顔は獅子であり、大きな四枚の翼を持っていた。姿から、バイバイと見て間違いなかった。バイバイが座る石の周りには犠牲となった冒険者の物と思われる武具が置いてあった。

(岩の周りに置かれた武具は、差し詰め、バイバイのトロフィーだな)


 バイバイが大きな口を開けると、直径一mの火の玉が生成され、飛んできた。

 ヒイロは前に進み出る。アルテマ・ソードを振るい火の玉を真っ二つに切断した。割れた火の玉がヒイロの後方に飛んで行き、爆発する。


 バイバイの顔が、にやりと笑う。バイバイはヒイロを敵と認識したのか、悠然と立ち上がった。


 ヒイロは駆け寄り、袈裟斬りをお見舞いする。バイバイはよけなかった。防ぎもしなかった。バイバイの体にアルテマ・ソードが当る。


 木剣で巻き藁を殴ったような感触がした。

 バイバイはアルテマ・ソードをくらっても傷一つ付かなかった。すぐに別の部位も攻撃した。だが、同じように鈍い感触が返ってくるだけで、傷が付かない。


 当のバイバイは余裕の表情で、欠伸あくびをして攻撃を受けていた。

(まずいな。アルテマ・ソードが効かない)


 ヒイロはバックステップを繰り返して、バイバイと距離を取る。

 パオネッタが杖を掲げ、魔法を完成させる。バイバイの足元に魔法陣が形成され、直径三m、高さ十mの火柱が吹き上がった。


 火柱に包まれたバイバイだが、何ごともなかったかのように火柱の中から現れた。

「これは、ピンチってやつか」


 アルテマ・ソードは普通の剣よりも強い。それでも通用しないのであれば、もっと強い武器で攻撃しなければならない。


 だが、アルテマ・ソード以上に強い武器は、そうそうあるわけではない。

 犠牲者たちの武器に目が行く。だが、すぐに思い直す。犠牲者たちは、やはりバイバイに武器が通用しなかったから、亡くなった。


(あそこにある武器では、バイバイを倒せない)

 それに、バイバイが自分を倒せる武器をわざわざ近くに置くとは考え辛かった。


 また、大岩の周りにある武器は、手入れがされていない。なので、まともに使えるかどうか、怪しかった。


 ヒイロは何か攻略法がないかと考える。すると、バイバイが大きな爪のある手を振り上げて、攻めてきた。バイバイの一撃を剣で防ぎつつ、攻撃する。やはり、傷を負わせられない。


 バイバイの爪のほうがヒイロの剣よりリーチが短い。されど、バイバイは、ヴォルフのように懐に飛び込んでくる攻撃をしてこなかった。


 ヒイロはヴォルフ戦を思い出し感謝した。けれども、しばらくして妙に思った。

(こいつは、何人もの剣を持った冒険者を倒している。なら、奪った剣を何で使わないんだ? 使い勝手がよくないなら、ヴォルフのように、もっと近い間合いで闘ったほうが有利だろう)


 試してみたくなった。タイミングを合わせて、ヒイロからバイバイの懐に飛び込む。


 バイバイが途端に距離を取った。

(おかしいぞ。バイバイのやつ、何で、急に距離を開けたんだ?)


 怪訝に思うと、バイバイの動きが急に速くなった。

(何だ、こいつ? 何かを焦っているのか?)


 バイバイが何を焦り、何を悟らせたくないのか、わからない。だが、バイバイは至近距離での戦を嫌っていた。


 偶然、二人の間合いがとても狭まった。ヒイロは思わず蹴りを繰り出した。バイバイの腹に蹴りが決まった。


 すると、アルテマ・ソードでいくら斬られて傷付かなかったバイバイが腹を押さえて後退した。


(攻撃が効いている。こいつ、斬撃や刺す攻撃、魔法には強いけど、打撃には滅茶苦茶に、弱いのか)


 ヒイロは確かめるべく、アルテマ・ソードを消して、素手での格闘を挑んだ。

 すると、今まで攻撃を避けなかったバイバイが、急に攻撃を避け出した。


 ヒイロの一撃が、再び腹に当る。バイバイが前屈みになる。

 下がった顎にアッパーを入れる。バイバイの体が宙に浮いた。バイバイがそのまま翼を拡げて、浮かび上がる。


 ここで、パオネッタの魔法が完成する。

 パオネッタの杖から光るロープが伸びて、バイバイの右足に絡まった。バイバイが飛び去ろうとしたので、パオネッタが引っ張られった。


「そのまま耐えてくれ」

 ヒイロはパオネッタの側まで駆け寄る。光るロープの上に乗って走る。


 ヒイロはバイバイの背中に飛びつき、背後から裸絞めを懸けた。

 バイバイから急に力が抜けて、二人の体は落下した。


 ヒイロは落下の直前に、バイバイから飛び退く。ヒイロは草原の上に落下したので、受け身も簡単に取れた。


 気絶していたバイバイは、石の上に頭から落ちた。ごきんと音がして、バイバイの首はおかしな方向に曲がっていた。


 ヒイロの頭の中でファンファーレが響いた。

「伝説の悪魔を狩りし者の実績が解除されました。アルテマ・ハンマーが使えるようになりました。神殿で褒賞を受け取ってください」


(やはり実績が絡んでいたか。この手の実績は続きがある実績だから、伝説級のモンスターをあと何体か狩れば、また達成できるぞ。これで三十八個目。あと実績は残り、七十個)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る