第3話 海の敵の実績解除
三十五m級の海賊船が櫂を漕いで、近づいてくる。船員たちが応戦すべく武器を取る。
パオネッタも船員たちの声を聞いて甲板に上がってきた。
ヒイロはアルテマ・ソードを出すと、パオネッタに頼む。
「俺を海賊船の上まで飛ばせしてくれ」
パオネッタは良い顔をしなかった。
「乗り込んでくる海賊を蹴散らすんじゃなくて、こっちから仕掛けるの?」
「実績に海の敵を百頭討伐ってのがあるんだよ。海のモンスターで実績解除しようと思ったら、やつらは逃げる。だから、
「なるほどね。船の上に乗り込んでしまえば、海賊は逃げられない。纏まっているから数も稼げるわけね。いいわよ。向こうの船の上に飛ばしてあげる」
パオネッタが杖を片手に魔法を唱える。ヒイロの体が浮いた。
ヒイロは光る玉になり海賊船の甲板に下り立った。ヒイロは光が消えると、海賊に斬り懸かった。
安い剣しか持たない海賊は剣ごと斬り伏せられる。
そのまま、ヒイロは海賊船の甲板にいる海賊をずったばったと武器ごと斬っていく。
試し斬りの野菜のように海賊たちは斬られていった。
(気持ちいいな。いい斬れ味だ。ストレスなく斬れる。ヴォルフに比べれば何のことはない。巻き藁同然だ)
途中、海賊船長らしいのが名乗りを上げて出てきた気もする。
だが、剣ごと額を叩き割ったので、よくわからなかった。
あれよあれよという間に十以上の死体が甲板に転がる。
海にけっこうな数の死体が落ちたので、海賊を二十人は斬っていた。
だが、頭の中でファンファーレが鳴らないので、まだ、実績は解除されていない。
海賊がヒイロの剣技に恐れをなして、武器を捨てて降伏する。
「参った。俺たちの負けだ。命だけは助けてくれ。頼むこの通りだ」
ヒイロは武器を振り上げて海賊を斬った。
「駄目だ。お前たちは多くの人から多くのものを奪い過ぎた。今更この期に及んで命乞いなんて虫が良すぎる」
心理的には海賊を許してもよかった。
だが、実績解除にまだ足りないので、斬っとくに限ると思った。
(どうせ生かしておいても、他の船が犠牲になるだけだしな)
ヒイロが無情にも海賊を斬っていく。
風は凪いでいるが、潮の流れがある。なので、海賊たちを追うのは不可能だった。
逃げ遅れた海賊を斬っていると、頭の中でファンファーレが響く。
「海の敵を百頭討伐する実績が解除されました」
(称号も褒賞も、なしか。まあ、いいや。これで三十七個目。残りの実績七十一個か)
アルテマ・ソードに着いた血を海賊の服で拭く。
船長室にお宝があるかもしれないので、船長室を覗いた。
船室は十四畳ほどの広さの部屋だった。テーブルと椅子があるほか、ベッドがあるだけの質素な部屋だったが。
だが、見るべきものが二つあった。一つは壁際に置いてある宝箱。宝箱は一辺が六十㎝ほどの小さなものだった。注目すべきもう一つは、二十歳くらいの女性だった。
女性の身長は百六十㎝、髪は金色で肌は白い。薄く唇に紅を引いている。服装は一般的な旅人が着る、質素な厚手の茶のワンピースを着ていた。
女性はヒイロを見ても安堵する表情を浮かべない。また怯える顔もしなかった。女性は細い眉に力を入れ、気の強そうな顔をして、ヒイロを見据えていた。
(船長の情婦にしても、海賊船に乗っているのはおかしい。捕まったにしては乱暴された形跡もなしか。何か妙な女性だな)
「あんた、名前は? それと、あんたと海賊の関係は?」
女性はヒイロ毅然とした顔で見つめて答える。
「名前はカルロッタ。この船の船長に頼んで新大陸に渡してもらう途中よ」
「この船は海賊船だろう。海賊船で新大陸へ行く気だったと言い張るわけ」
カルロッタは乱暴に答える。
「港を出るまで、海賊船だとは知らなかったのよ。本当よ」
(嘘臭いな。でも、海賊ではないようだ。海の敵の実績解除をしたから、斬る必要はもうないんだよな)
カルロッタが気丈に訊き返した。
「そういう貴方は、何なの? 海軍の兵士には見えないわね」
「俺は新大陸に行く途中で海賊船に襲われた船の人間だよ。もっとも、海賊は返り討ちにしたけどね」
カルロッタは平然と要求した。
「なら、貴方の乗っていた船で私を新大陸に連れて行ってよ。お願いよ」
「新大陸に何の用事があるんだ?」
カルロッタが険しい顔で理由を告げる。
「私は西大陸で人生に失敗したのよ。だから、新大陸で再起したいのよ」
(本当かなー。でも、ここに置いていっても、未来はなさそうだ。連れて行ってやるか)
「いいぞ。俺が船長に話を付けてやる。従いてこいよ」
ヒイロは外に出て両手を振って合図する。
貿易船が寄ってきて船を横付けにした。板を渡して、船を繋いだ。船長室にあった宝箱を回収した。海賊の根城の島を記るした海図も船長室から回収しておいた。
船長室にあった宝箱を開けると、金貨がぎっしりと詰まっていた。船長が目を見張った。
「かなりあるな。いいよ。半分やるよ。とっておけ」
ヒイロが気前よく船長に告げると、船長は
(これも、俺の世界の探求者の称号が呼び込んだトラブルかもしれないから、これくらいはいいだろう。それに、カルロッタを船に乗せる船賃代わりだ)
その後は、何事もなく船は海を進む。明日の朝には新大陸の港に着くと思われた。
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