第2話 いざ新大陸へ

 優勝者インタビューを適当に終えて、祝賀パーティになる。各国のスカウトがやってきた。


 各国のスカウトから条件が提示される。「金貨だ」「領地だ」「爵位だ」と各国のスカウトは様々な利益をちらつかせる。決まってヒイロは「休みは?」と訊くと、どこもそれほどなかった。


(人生は短い。公務に忙殺されていたら実績解除ができなくなる。金や名誉より、実績の解除だ)


 パーティが終わると、一人の黒いドレスを着た女性が近づいてくる。身長はヒイロと同じくらいなので、かなり高い。体は細身でスレンダーな体型をしている。


 赤い髪をしており、気の強い印象を与える顔立ちをしている。年齢は二十歳。名前をアブリスク・パオネッタ。

 実績の研究者であり、ヒイロの協力者である。


 ヒイロは元気よく告げる。

「厄介だった。最強者の実績が解除された。これで三十五個目だから、噂の通りなら称号の世界の探求者が得られるはずだ」


 パオネッタは涼しい顔で告げる。

「西大陸固有の実績もほぼ解除したから、次は新大陸に渡るのね。いよいよ本番ね」


 ヒイロの気分は踊る。

「そうだ、新大陸での実績解除に向かう。まだ見ぬ実績が俺を待っている」


 ヒイロの人生には目的があった。人間にあると噂される百八の実績を全て解除すること。全ての実績を解除した時に人生に何があるのかそれが知りたかった。


 翌日、ヒイロは神殿に向かう。この世界に神は一人しかいないので神殿に種類はない。

 街の神殿は縦横が五十m、高さが二十mの大理石の白い神殿だった。


 神殿に着くと、受付に行く。

「称号の授与と褒賞を受け取りに来ました。実績お婆さんに会わせてください」


 実績お婆さんとはどこの神殿にも必ずいるお婆さんである。

 称号の授与と実績解除の褒賞は、実績お婆さんから受け取る。


 十畳ほどの小さな部屋に通された。淵に刺繍がある若草色のローブを着た身長百五十㎝の老婆が待っていた。


 実績お婆さんはヒイロを、ふむふむと一瞥する。

「最強者の実績を解除したようだね。いいだろう、闘神の称号の授与を行うよ」

ヒイロが跪くと実績お婆さんがヒイロの頭上に手を翳す。頭がほのかに温かくなる。


 実績お婆さんが褒める。

「おやおや、これで三十五個目の実績解除だね。感心感心」


 頭の中でファンファーレがなり響く。

「世界の探求者の実績が解除されました。神殿で褒賞を受け取ってください」


(よし、きたぞ称号の世界の探求者。これで、実績解除が三十六個目だから残り七十二個)


 実績お婆さんが気の良い顔で勧める。

「いいだろう、世界の探求者の称号もあげよう」


 再び頭が温かくなる。

「今から世界の探求者の称号を装備していくかい?」


「お願いします」と応えると実績おばあさんが呪文を唱える。

ヒイロが立ち上がると、実績おばあさんが微笑んで両手を掲げる。


 実績お婆さんの手に一振りの銀色の剣が現れた。

「最強者の実績解除の褒賞のアルテマ・ソードだよ」


 アルテマ・ソードを持つと、思いのほか軽かった。

「普段、俺が使っている剣のほうが重いな」


 実績お婆さんが有り難味のある顔で説明する。

「アルテマ・ソードは心の剣。念じれは消えて、念じれば現れる。刃毀(はこぼ)れせず、血脂で斬れ味も落ちない。扱い易いが、それほど威力が大きな剣でもない。威力重視なら、高価な剣を買ったほうがいいよ」


「そんなことをいって、このアルテマ・ソードを使っていたら、解除される実績もあるんでしょう?」


 実績お婆さんは何もない空中から砥石を取り出した。

「そうそう。今、砥石がセール中なんじゃ。よかったら買っていかんか、金貨三枚」


 見た感じ普通の砥石だった。普通の砥石なら銀貨三枚でも高い。実績お婆さんは基本的に親切だが、時折、要らないアイテムを高値で売りつけにくる。


 もっとも、有用な隠された実績に関する情報への情報料が込みだったりする。なので、高いか高くないかの判断は人による。


 ヒイロは黙って金貨三枚を払う。実績お婆さんは、にこにこしながら教えてくれた。


「あるね。アルテマ・ソード関連の隠された実績。それほど難しい実績じゃないから、使っていれば、そのうち解除されるよ」


 ヒイロが消えろと念じるとアルテマ・ソードが透明になり、消えた。

 現れると念じると手の中に剣が現れた。


「便利といえば、便利な剣だな。使ってみるか」

 ヒイロは砥石を持って神殿を出た。


 宿屋の部屋で、パオネッタと会議を開く。

「新大陸で冒険を巻き起こすと伝えられる世界の探求者。この称号は手に入れた」


 別に称号がなくても、新大陸に行くだけなら行けた。ただ、世界の探求者の称号があるとないとでは、起きる現象が異なると噂されていた。


 パオネッタが軽い感じで聞いてくる

「後は新大陸までどうやって行くか、よね。王家の支援を受けて行くのか。それとも独力で行くかのか、どっちにする?」


「選択は決まっている。公式闘技大会での優勝賞金がある。これで船を借り切って新大陸に渡ろう。俺たちの冒険は俺たちの手で始めよう」


「わかったわ。なら、港町に入って船を探しましょう。できるだけ早くに見つけるわ」


 首都から港町に渡り、新大陸に行く船を探す。

 新大陸に商売に行きたがっている船が見つかった。


 船は借り切ることはできなかった。だが、乗せてくれると請け合ってくれた。船賃を払って乗ることにした。


 乗る船は二本のマストを持つ全長四十五mの貿易船だった。新大陸がどうなっているかわからないので、食料やテントなどの物資も、積ませてもらう。


 船は新大陸への商品を積むと、港を出る。

 晴れた日に海を出た。海は青く港町が小さくなる。


 海に出て三十分も経たずにパオネッタが船に酔った。

 パオネッタが自前で作ってきた酔い止めを飲むが、苦しそうだった。


「大丈夫か、パオネッタ。まだ、海に出たばかりだぜ」

パオネッタが青い顔で意見する。

「大丈夫じゃないわよ。よく、ヒイロは平気なのね。これも超人体質ってやつの恩恵?」


「俺の生まれは漁村の人間だからね。十歳の頃から、ちょくちょく船に乗って働いていたからなあ。これくらいの揺れなら全く問題ないよ」


 パオネッタが辛そうなので、あまり話し掛けないようにする。

 船員たちと適当に話をして新大陸への時間を過ごした。


 七日は何事もなく過ぎた。その日は凪ぎで、船の速度は落ちていた。

 昼にはパオネッタも幾分か話せるようになっていた。そんな時に事件が起きた。

「海賊だー。海賊が出たぞー」

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