第16話
しかし属性か。私は今アーケロンを取り込んで水の状態だから、キュムキュムと一緒にいられないんだとしたら、さっさとTIT潰して離れてもらおう。でないとキュムキュムのモフモフが一生味わえない。そんなのは嫌だ。こちとら十年来の親友なのだ。よしっと決意を新たにすると、何を張り切っているんだ、とティラに訝られる。いえいえ何でもありません。何でもありませんとも。でもこの水の属性が一体何を出来るのかはさっぱり思いつかないんだから、宝の持ち腐れだ。水。うーん、凍らせたり熱湯浴びせたり? 良く解んないなあ。私の裁量で好きにして良いってアーケロンは言ってたけど、私の裁量って何さ。これまで自主的な行動はあまりせず、守られているばっかりだった私には、やっぱり解らない。一念発起したのなんて、あの朝ぐらいじゃないだろうか。ティラが村を発つあの朝、根性で目を覚ましたあの朝ぐらい。
船が安定して地球への航路に入る。流石にここで敵襲があったらやばいな、なんて思う。外空気無いし。吹っ飛ばされたら戻れないし。一応皆で宇宙服を着るけれど、気休めだよなあと私はアロの三つ編みを押し込んであげる。プッテちゃんの髪はパラ専用だ。と、私も髪を編まれているのに気付く。見ればティラがそうしていて、くるんっと首に回された。ティラのマスクはそのままだ。息苦しくないんだろうかと思いながら、ありがとね、と言う。目を細められると、ヘルメット越しなのが勿体ないぐらいに優しい顔だった。ひゃーっとなる、ひゃーっと。声も良いけど顔だって美男子系なのだ、ティラは。だから目立たないようにマスクに外套という旅姿は合っていたと思う。そう言えば。
「ティラの属性ってなんなの? ティラって言うか、エレメント・ソーサラー?」
「ン……万物だな。水、火、風、土。エレメントがあればそれらを分解できる」
「この宇宙船は? 例えば」
「土属性金属だから、やろうと思えば」
「案外おっかないね……」
「まあな」
しかしだから私の属性付加がティラに解らないのだとしたら、エレメント・ソーサラー様様だ。あと同じなのはアロもか。ティラと同じ属性って、さっきプッテちゃんも言ってたし。パラには話してあるし、ステちゃんは普通の人間だから気付かないだろう。ひそ、とパラが何か呟いていたからプッテちゃんにも。なんとか騒ぎにならないで欲しいけれど、この力がエレメント・ソーサラー絡みだって言うのは厄介だなあ。ブラックボックスだらけの機械。よくそんなものを戦場に実戦投入しようと思ったもんだ。
「んで、具体的に誰を叩けばTITが壊滅するかは解ったのか? ティラ」
「科学者連中を解き放てば自壊するだろうと思っている。頭まで押さえるまでもなく。あそこは人体実験の出来る倫理観の学者を一か所に集めた事で成り立っているようなものだったしな」
「ティラ。アル博士達は違った」
「そうだな、各国から優秀な生物学者を誘拐することもしていた。その為には子供も使って」
「それ、って」
私は思わず呟いてしまう。
「私がTITの施設にいたから、お父さん達は逃げられなかった、ってこと?」
「そう言う事だ」
「ティラ!」
「事実を隠す方が為にはならない。アロ、お前だって博士達もマッドサイエンティストの一端だったなんて言えないだろう」
「それはそーだけどよ……」
「俺達と同い年ぐらいの科学者もいたな。誘拐されて連れて来られた――アルカ・エオル・ニトイデス。ニトイ博士だったか」
「まだ捕まってるのかな」
「でなければ死んでいる」
「ティラ。もう少し何かに包んだ言い方してあげて」
プッテちゃんがちょっと怒った風に言う。多分私を気遣ってくれてるんだろう。でも私は大丈夫だ。もう、そのぐらいで傷付くほど弱くない。
「大丈夫だよ、プッテちゃん。でもその博士も災難だね。頭が良いって良い事ばかりじゃないのかも」
「悪くても良くても、そこに頭脳は関係ない。環境と性格だ」
「あとは薬かねえ? 俺達の場合」
「あれは効果が終わると吐き気が止まらなくて大変だったな」
「それを常用されてるオルやレックスは、組織が壊滅しても生きて行けるかねえ……」
「オルちゃんの面倒なら俺が見るよ」
「大却下」
男性陣の声が揃って、きょとんとしているプッテちゃんが残る。プッテちゃんはある意味、あれを見せられなくて僥倖だったと思う。昔の仲間が幼女の乳揉みとか、ないわー。他人でも嫌だったわー。
「それにしてもファーストシリーズ、私を狙ってこないのは不思議だよねぇ。あれだけ目立つ活動してるのに、吹き矢の一つも飛んできたことがないよ」
「逆に目立つだろう、それ」
「プッテちゃんは可愛いから手を出せなかったんだよ。って言う真実は置いておいて、常に人を侍らせてる状態じゃ連中も手出しできないでしょ。ましてツアーが年四回ともなれば、追い掛けて行くことも出来ないし」
「それもそっか。ティラが狙われたのは三回?」
「正確には二回だな。三度目はメガのみを襲うつもりだったらしいから」
「あんな可愛い子にだったら襲われても良いなあー」
「黙れ変態」
容赦ないな皆して。
と、そこで機内アナウンスの入るザザッと言うノイズが走る。
「そろそろ地球だからシートベルト締めてー。宇宙服の確認もちゃんとね」
「おっけーステちゃん」
「アロ様は髪に気を付けてくださいね。テミスも」
「あいあいー」
「前から気になってたんたけど、なんで様付けなの? そう言うプレイ? 花嫁修業って」
「違う違う、あの子の自主的な呼び方。昔クマに襲われてるところ助けた事があってね、それで」
「運命の赤い糸を感じられちゃったか」
「ナニソレ?」
「どっかの地方の伝説。思いが通じ合ってる者同士は小指に赤い糸が繋がってるんだってさ。ファンレターで東方の子が教えてくれた」
「まさかプッテちゃんその子に……!?」
「握手会で騒ぎ起こされて永久出禁になったわよー。もう、パラったら心配屋さん♪」
「それだけプッテちゃんが大事だからね♪」
…………。
ほんっと暑苦しいな。スーツのせいだけじゃなく。
「じゃあ大気圏……突入!」
ステちゃんの声が深刻で、私はこれから初めて降り立つ母星の青い海を睨みつけるしかできなかった。
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