第4話
「ステ・ゴ。もう少しでステ・ゴ・サウルスになる予定の、くノ一よ。覚えてもらってもすぐに死んでもらうから要らないわ。自分が賞金首だって事は知ってるんでしょう? じゃあここで首になってもらっても良いわよね。手土産が欲しいところだったの、丁度」
年齢は私より一つ二つ年下だろう。さっきのレックスと名乗った男の子と同じぐらい――もっとも彼らは人工的に成長させられている可能性があるけれど。そういう研究も、資料にはあったから。
しかしそれより先に、頭を抱えたのがティラとパラだった。二人の様子にきょとんとしてしまうと、ステちゃんの方も訝し気にしている。ステ・ゴ。サウルスの予定。ティラ。ティラ・ノ・サウルス。あれ?
「その手土産を渡す予定の人ってさあ……」
パラがため息交じりに尋ねる。
「アロって言わない?」
途端、ステちゃんは眼を輝かせて私達を見た。コンタクトレンズもびっくりの大きな眼で、頬を赤らめて。
「アロ様を知ってるの!?」
「知ってるって言うかさあ……プロトメサイアの手配状に居なかったの? あいつ」
「私が見たのはティラ・ノ・サウルス一件だけよ。結構散り散りになっちゃってるから他は解らない。って言うか、なーによあんた達アロ様の知り合いだったなら早く言ってよもー、さっきの小柄思いっきり毒塗っちゃってたじゃない、大丈夫? 腫れたりしていない?」
「テミス」
「私は大丈夫……」
「だそうだ。俺達は問題ない。プロトメサイアだからな」
「へ、そっちのおにーさんも? あーどうしよう首にしてアロ様に資金提供するか連れてってアロ様に旧友との邂逅して頂くか迷っちゃうー! あーんアロ様ぁ、優柔不断なステをお許し下さい~!」
何だろう、たった一つ確実なことは、なんかめんどくさい子に当たっちゃったって事だ。とりあえず、
「アロって誰?」
こそそっと隣のパラに訊いてみると、あー、と眼を逸らされる。え、何その反応。断然気になる。
「コックで、ティラの相棒……って所かな」
「相棒?」
プロトメサイアにもそんな制度があったのか。って言うかコックって。
「アロ様はね!」
跳ね上がるようにちょっと背の高い私達の話に入ってくるステちゃん。ティラはなぜか遠くを見ている。どうしてだろう。
「私が修行中にクマに襲われそうになった時に、すぐにその場でクマを捌いて助けてくれたの! あの時のクマ肉のステーキの味、忘れらんないなあ……血なまぐさくてゲロ吐きそうだったけど噛みしめて食べたっけ……」
「血抜きをしてない時点で素人じゃ」
「そんな事ない! アロ様の事、コックって言ったわよね、あなた!」
「戦場では何でも食ったからなあ」
「もー、なんでみんなアロ様のこと認めないのよー!」
むきー! っと両手を上げてバタバタする姿は子供だった。恋に恋する子供だった。
「名前だけ交換して別れちゃったのすっごく後悔して、やっとこの近くでレストランやってるって情報掴んで! あんた達もアロ様のとこに行くんじゃないの?」
「そのつもりだ」
やっとティラがため息混じりに喋る。やっぱり、とバンッと手を叩いたステちゃんは絶好調だった。えーと、くノ一ってシノビだよね? あんまり騒いだり音立てたりしちゃいけないんじゃないの? 解らない。東方の事は全く分からない。
「じゃあ一緒に行こうよ! あなた達の名前は? あ、ティラはもう知ってるから良いわ」
「パラ・サウロロフス」
「テミス。アル・テミス」
「パラにテミスね。よろしく!」
両手を差し伸べられて、思わず掴んでしまう。パラも同じく溜息を吐いてそうした。ティラはやっぱりどこか遠くを見ている。アロって人の所に行くのは問題ないけれど、この子が問題なんだろう。恐らくは。気配振りまいてるし、声大きいし。私みたいに戦えない訳じゃないからまだ良いんだろうけれど、大所帯は目立ちやすい。それは狙われやすいのと同義だ。アロ。アロ・サウルス。一体どんな人なんだろう。って言うか。
「ステちゃん、その人にプロポーズしに行くの?」
もう少しでサウルスが付くって。
「やだもーテミス、言わせないでよお!」
「アロさんがプロトメサイアでも?」
「愛に種族は関係ないよ!」
べしいっと叩かれた手はちょっと痛かったけれど、それ以上にこの子は危険だった。危険・オブ・危険だった。
プロトメサイアと知りながらも、その人の所に行ける。
でもそれはちょっと、ちょっとだけ、羨ましい勇気だなって思った。
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