第5話 後ろ姿

 ある日のことだった。いつも通りバイトに向かおうと電車を降り、改札を出たとき、見覚えのある後ろ姿が目に入った。人違いだと思ったがあの後ろ姿を間違える訳がなかった……里奈だ。

 俺は急いで里奈と思われる人影を追った。田舎の駅と言えど大きな駅で人はたくさんいた。人を掻き分けて進むが追い付ける気がしなかった。

 やっとのことで駅から出て周りを見渡す。だが、里奈の姿はなくただ人が歩いているだけだった。

 もしかしたら見間違いかもしれないな。と考えながら、俺はバイトに向かう。

 バイトの途中でもそのことを考えるが、すぐに仕事のことで頭がいっぱいになる。だが、ふと暇になったとき、里奈が誰かと店に来て俺が接客しなければならなくなったらと考えると胸が痛くなる。

       ◆

       ◆

「ふぅ~、疲れた」

 俺は、夜風に吹かれながら言う。九月の中旬の二十三時過ぎに吹く風は少し肌寒く感じた。親が迎えに来る十分ほどの時間で今日あった出来事を振り返る。

 今日のバイトはそんな忙しいわけではなかった。一人でドリンクと簡単な料理を作り、洗い物もする。注文が入ればドリンクを作るの繰り返しだった。居酒屋バイトでこういう日の五時間というのは意外にも短く感じる。

 そして、あの後ろ姿のことを思い出す。きっと見間違いだろうが、どうしても頭から離れなかった。

「あれは、ほんとに里奈なのか?」

 そう、心の中で呟く。あの時は里奈に間違いないと確信していたが、今となっては、単に見間違いかもしれないという気持ちになっていた。

 そんなことを考えていると、母親が乗った車が現れる。俺はそれに乗り込み、帰宅した。

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