第4話 遊び場のにおい
あれから色々あり、俺は高校を卒業し県外の専門学校への進学を決めた。学校までは電車で一時間半かかるが、一人暮らしはしなかった。家の生活が厳しいわけではないが、ほかの家と比べたら収入は少ない方なので、実家から通うことを決めた。
里奈は県内の大学に行ってるはずだから会えないわけではない、一人暮らししたいとか言ってたので多分、学校に近い場所に家があるのかそれとも寮に住んでいるのだろう。
もし会えたところで話しかける勇気は微塵もないし、話しかけることが出来たとしても無視されるだろうし、無視されなかったとしても楽しい雰囲気になる訳がない。そんなことが分かっていても未練が断ち切れないのは気持ちのどこかにまだ、里奈が別れたことを後悔してるのではないかと考えているからなのかもしれない。
そんなことを想像しながら、俺は例の遊び場のベンチに腰掛けた。雑草の青臭さが鼻を刺激する。やはりここに来ると、里奈といた時間を思い出す。デートの最後の数分をここで過ごすことによって、名残惜しさを騙していた記憶が蘇る。
高校を卒業する直前に俺は里奈の友人を通じて連絡を取ったが受験で忙しいからと断られた。
こうなることは分かっていたのに、何故俺は里奈と遊ぼうとしたのか分からなかった。理由を挙げるなら、里奈と付き合うきっかけになったことを真似すれば、よりを戻せると思ったからなのかもしれない。
ふと、携帯の時計を見ると十七時と表示されていた。バイトまでの時間には少し余裕があるが俺は立ち上がる。
「さてと、ゲーセンに行ってからバイトに行こうっと」
今後の予定を口に出して俺は立ち上がる。そして、遊び場を出る直前に振り向き、
「またね」
と、呟いた。誰もいない、里奈の面影だけがいる場所に向かって。
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