第3話 右側

 あの日から、一人で歩いていると、どうしても右側に里奈がいないことを意識してしまう。カップルらしき二人組を見ると余計に意識してしまう。右側に人がいないだけでこんなにも悲しくなってしまうのかと、俺は思う。複数人と付き合ったことがあると言っている人は心のそういう部分が欠如してしまっているのではないかと思ってしまう。

 それにもう一つ意識してしまうことがあるとするなら、それは里奈の面影を探してしまうことだ。俺が暮らしている場所には遊べるところなんて数えるぐらいしかない。それの所為もあって、駅前などのよく行く場所に行くと無意識に里奈の面影を探してしまうのだ。

「はぁ……いい加減にしないといけないんだけどな」

 駅前の広場にあるスペースに腰を下ろし、俺はため息まじりに独り言を言う。

 ちょっと前に、ここで待ち合わせをして遊びに行った記憶が浮かんでくる。なんでこんな嫌なことがあったらその人との良い思い出しか出てこないのだろうか。ちょっとの悪い思い出をたくさんの思い出で塗りつぶそうとしているのだろうか。そんなことを考えたって、答えは一向に出てこない。

「はぁ……」

 またため息を吐く。そして再び、里奈のことを考える。今どこで何をしているのか。などと考えるが、すぐに頭の中から消す。すぐに別のことを考えるが里奈のことはすぐに消えない。しばらく頭の隅っこにこびりついている。

「踏ん切り着けなきゃいけないのぐらい、俺だってわかってんだよ。いちいち言うなよ。クソが」

 と、周りの人物に対しての文句を呟く。

 そして、スマホの画面を見る。そこには里奈に似た女性の絵が表示されていた。失恋した直後にSNSアプリでみつけた画像だ。リアルの画像を見ているよりかはマシだろうと思い俺はこれを保存した。まぁ、これも十分気持ち悪いとは思うのだが。

正直、部活に打ち込んでれば里奈のことを忘れることは出来た。あくまで一時的な効果ではあるが。大会の結果だが、なんとか県大会に進んだ。幸か不幸か里奈の学校も県大会に進んだ。嬉しい気持ちもあれば何か言葉に出来ないような気持ちが入り乱れた複雑な心境が胸の中を行ったり来たりした。

 県大会では、惜しくも上位大会には行けなかった。里奈の学校も同じだ。まぁ、俺の最後の大会は終わり、あとは来年の六月に行われる発表会なるものに出れば俺は部活を引退する。里奈の学校は進学校なのもあってこの大会が終われば引退するらしい。まぁ、俺にはどうでも良いことなのだが。

 そんなことを考えていると、親の迎えの車がやってくる。俺はそれを見て立ち上がる。そして、ふと後ろを見る。そこには何も無いが、数週間前の記憶が鮮明に蘇って、脳裏をよぎる。その記憶に別れを告げ、俺は車に乗り込んだ。



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