第34話貴方は、種族は違えど同じヒューマンの女性が、自身の後ろに3人の子供をかばうようにして壁になっていた時、その全てを殺めることはできますか。(殺めないと後年厄災となって帰ってきます)


 #この話には、比較的強めな残酷な描写が含まれています。良心が耐えられない人は洞窟の文字が出た段階で途中で読み飛ばすことを強く推奨します。#


「おう、本当に壊滅的な状況じゃんさ…… 。」


 タニシ村で見たのは、家が焼かれ倉庫が崩れ、ただ呆然としている人々の姿でした。こりゃあここで補給は無理だね。


「じゃあ、おふたりとも家族が生きてるなら家族のもとにお帰り。」


「……」


「ありがとう狐さん!」


 ふーむ、まああの2人はモブだからこれでいいとして、この村どうにか出来ないもんかね。オークがいなくなれば良いのだろうか。


 そんちょー。


「ああ、冒険者かい。ここは何もない、さっさと行きなされ……」


「うんまあそうするけど、ここってオークが略奪したからこうなったの、他に問題はないの?」


「オークじゃよ、30人以上のオークがここに襲撃をかけたのじゃ。ワシらにはどうすることも出来なかった。あんたが連れて帰った以上のおなごが連れ去られておるよ……」


「あ、そうなの。ここってまだブキョーでしょ、助け呼べば討伐してくれるんじゃない?」


「飛行船ができてから下の交易のための村は捨て置かれるようになったのじゃ、ここは廃村じゃのう……」


「まっじかー。じゃあ討伐部隊呼んでも意味ないか。呼べるくらいの力は実は持ってるんだけど。」


「うそを言う出ない、下道を走る冒険者風情が呼べるほどの力なんて……」


「ほれ、国家主席との2ショット魔導写真。お友達なんだよ国家主席と」


「な、な、な…… 。」


 というわけで久しぶりにひとっ走りして冒険者ギルドを訪問、タニシ村近くにオークが拠点を作ったから討伐部隊を出してほしい旨を伝えて、ついでに私が「拾った」レア魔石を相当数お土産にあげて上のほうに情報をどんどん上げることをお願いしました。レア魔石という賄賂は重要。


 2日で動いたね。あの精鋭兵士部隊が即応部隊になっていたみたいで、即座に出陣。数180。おこぼれをもらう冒険者も30人ちょいほどついて、タニシ村へ向かっていきました。


「30人のオークが襲撃を仕掛けたという話だ、襲撃に参加していないものも含めれば3倍の90人はいると思え。これは常にだが、今回は特に斥候の情報が非常に重要となる。森での戦闘が想定されるため散兵戦術をとる。斥候は最前線に出す。つまり情報収集を中心とする。やれるな!」


「「「はいっ!!」」」


 精鋭部隊の士気すごいー。今回の精鋭部隊は、冒険者を使わず精鋭部隊だけで動くそうです。あやふやな冒険者の情報は危険だから、いらないって感じなんでしょうね。


 全部自前で用意できる、いわゆる自己完結性が高い部隊ですねー。


 私は食糧輸送で支援してました。これ重要な任務だから。軍隊である精鋭部隊はそれなりの食料を持ってきているけど、冒険者なんて何も持ってきてないからね。


 一つ前の村がちょうど小麦収穫していたのでそれを買い取ってガンガン輸送しました。なにげに儲かった、ウヒヒ。


 3日ほどでオークの拠点が見つかりました。早いな。野営地レベルだそうで特に妨害する建物や障害物はないとのこと。


 こういう情報はさすがに冒険者にも流れてくるので私も把握できた。総攻撃は明日の早朝。部隊はすでに展開済みだそうです。


 私も参加するか。


 喋る人型を真正面からころころするのは初めて?かな。女の子救出は必死だったのでノーカン。オルクは叫んでいただけだしなー。


 総攻撃当日。早朝より早く目を覚まして野営地に向かいます。冒険者も移動を開始してますが、隠れる気がないですね。経験が浅いので何とも言えませんが、多分真っ先に狙われるぞ…… 。


 ガサゴソ。野営地を見渡せるところに移動しました。100人超えているかなーこれ。


 ちなみに直感と耳で息遣いを感じるので何となく精鋭部隊がいることはわかりますが、目視では全く分かりませんね。狐鼻はオーク臭で駄目です。


 ん、矢が飛び始めました!奇襲を最大限生かしたいのかな。そして魔法は撃っていません、目立つからでしょうか。何名が矢を放っているかわかりませんが、魔導誘導されているので頭にガンガンヒットし、一気に数が減っていきます。すごい。


 あ、野営地を覆いつくすように魔法陣が出現しました!戦略魔法です!!魔法使いが複数人同じ術式を唱えて魔力を練り上げ、遠く離れた場所に強力な一撃をかますというやつです。


 動いてる目標には範囲から動かれてあまり効果がないから砦や塔、強靭な壁に撃つのが一般的。


 だから戦略的な魔法で戦略魔法。


 いや、誰にこの説明をしているんだ私。でも実況しちゃうよねこういう時って。


 オークも魔法に気が付いたので、野営地を捨てて逃走を図っています。ここで一般精鋭部隊兵士の突撃が始まったようです。


 剣と剣が交わる音、どこかを突き刺されて叫び声をあげるオーク。戦場や。


 私はやっと気が付きましたが逃げ場がないように布陣されていたようです。スゴイ、ツヨイ(語彙力)


 魔法陣が出現して5分ちょっと、遂に戦略魔法が放たれました。アイス・ストライクだー!多分ですが!上空から円錐状のデカい氷の塊が幾度も幾度も落ちてきて魔法陣の中全てを破壊尽くしていきます!これは殲滅できなくてもここに居続けるという選択肢はないでしょう。



 ほぼ戦闘が終わり、参加するといって何もできなかった私や冒険者は、破壊尽くされた野営地を漁ってます。精鋭部隊は追撃戦に入ってるので少数しかいませんね。


 村から取られたものでもあれば拾って返すのですけど、皆潰れちゃってる。ちなみにさらわれた女性も、うん。


 女性救出が任務じゃなくてオーク野営地討伐が任務だったもんね…… 。


 なんもないよねーと思いつつ死にかけのオークをぶすっとやって楽にする代わりに経験値をいただいたりして歩き回りました。野営地ですから何もないですよ。部族長がいれば話は違ってきますが……


 なんもありました。洞窟が隠されているじゃないですか。ちょっと抜け駆けして中に入ってみましょう。どうかな。暗い、カンテラ……の代わりにオーブを光らせて進みましょう。あれ、これだと無駄にかさばるカンテラ要らなくない?あとで売却しようっと。


「うおおおおお!!」


 うお、戦えるオークがまだいました!オーブの自動迎撃が顔面に当たり攻撃はできなかったようです。こちらの番だ、電撃オーブ!戦えるオークはしびれたっぽい!からの気孔剣!流れるような動きで相手の腹を深く深く掻っ捌く!内蔵どろーん。戦えるオークは腹を抱えてうずくまってしまった。


 介錯、首筋を切って終わらせました。た、戦えているぞオーク相手に。といっても防具なしでしたけど。


 もうちょっと先に進んでみましょう。あーんあーん、……これは子供の声。


 知っていると思いますがキツネは子供が大好きです。群れ総出で子供の育成をしたり、おばあちゃんや親戚が育成に参加するほど子供を可愛がります。


 もちろんお狐族も子供が大好きです。どこの街や都市に住んでいても子供とよく遊んでました。私のふわふわ尻尾は子供と遊ぶためにある。


 子供の声です。す、進んでみましょう。


 そこには子供を守らんとする母オークと、泣き叫んでいる子供オーク3人がおりました。ど、ど、ど、どうしよう。


 何かしゃべっているんですが私にはわかりません。とりあえず剣をしまい、オークがいなかったことにして部屋を物色。祭壇?らしきものがあって、そこに魔法の品っぽいボウガンが祭られていました。もらっておこう。後は……食べ物とかか。武器防具もあるけどサイズが合わないな。


 で、どうしよう。誰かに話せば絶対殺される。でも放置したら絶対トゥルーヒューマンを憎んで災いの元になる。殺さないといけないのはわかってる。でも。でも。


 その時入口から物音がしてきました。誰かがこの場所に気が付いたみたいです。どう考えても冒険者でしょう。何も考えずに殺すよね。


「お、お狐ちゃん此処にいたのか。っでー、これはこれは経験地ちゃんじゃあないか。うひょー4人も殺せばLv13くらいにはなれるんじゃねえのかな!」


「いや、1人1つでしょ。わたし母オークがいいなー」


「せっかくおこぼれにあずかれると思ったら何もないからなー来て損したと思っていたんだが。」


 ううううううう


「ここは私が最初に見つけたんです!先行者利益!」


「お狐ちゃんあくどいねえ。まあそれもそうだ、お好きなのどうぞ」


「……オークってそんなに迫害されているんですか?」


「オークはモンスターだろ常識的に考えて」


「……そうですか。私はこの場から去ります。耳がかなり良いので10分後にどうにかしてください。どんな種族でも子供の叫び声はつらいので」


「偽善者だねえお狐ちゃんは。いいぜ、ゆっくりいたぶってやるよ、うひひひひひ」


 心が弱かった私は子供を処理することができずにその場から逃げる選択肢を取りました。色々狩猟もしたけどちょっと今回は無理や。


 私が出て行ってから数分もたたずに叫び声が聞こえたのは心の傷となりましたとさ。冒険者なんて嫌い。

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