第二章

株式会社 セレクトデザイン

 『株式会社 セレクトデザイン』。

私の通うデザイン事務所の名前だ。


そこは、駅前から徒歩5分程度の2階建てのオフィスだ。


デザイン事務所と言うだけあって、外観も内装も凝ったデザインで一見すると、アパレルブランドの店舗のようにも見える。


取締役の門田 智和所長は還暦を過ぎているらしいが、ファッションセンスがよく50代前半くらいに見える。


部署は主に『企画部』と『広報部』の2つに別れているが私は、そのどちらにも属さない『総合事務』の事務員として採用された。


事務員は、私の教育係でもある三田 鈴絵さんと私の2人だけだ。


三田さんは40代くらいの落ちついた女性だ。

数ヶ月前に結婚したそうだ。

来年の3月いっぱいで退職するらしい。


だから私は三田さんがいる1年間で、一人前の事務員にならなくてはならない。



広報部には3人の先輩方がいた。


リーダーの上山 守さんは社長と同じくらいの年齢で美しい白髪をきちんとセットしている。


町下 あかねさんは20代とまだ若いが、ふんわりした雰囲気で顧客からの評判がかなり良く社内ではカリスマ的存在らしい。


田川 勇樹さんは私の1年先輩で、まだ19歳と若かった。

彼は「僕もまだまだ新米だから一緒に頑張ろう。」と言ってくれた。



企画部には3人のデザイナーがいる。


建築士の資格も持っているという、園岡 麻里子リーダーは50代から始めたとは思えないデザインソフトをたやすく使いこなす。

50代後半ということだが、やはりそれより若く見えた。


広山 篤人さんは過去に何度も賞を貰っており、その見た目もかなり風変わりで、いかにも芸術家といった感じだ。

30歳ちょうどで結婚はしないと決めているらしい。


最後の1人は、私と同じく新採用された中内 幹恵さんだ。

歳も私と同じだ。

彼女はデザイナーとして採用されたが、1年間は、ほぼ雑用の仕事をしながら勉強することになるらしい。


所長が言うにはデザイナーの卵らしい。

では私は事務員の卵に違いない。



初出勤はやはり緊張した。

だが、皆優しかった。


同じく新採用された中内さんとは、すぐに仲良くなり、昼休みには学生気分でたわいのない話をしながら一緒にお弁当を食べた。


中内さんは真っ黒な艶のある髪の毛をベリーショートにしている。

大きな瞳が特徴の彫りの深い顔立ちによく似合っている。


プライベートでも趣味で絵を描くというので、今度見せてもらうことになった。



 私の気持ちは高揚していた。


今夜、先輩方は私達のために歓迎会を開いてくれるそうだ。


私は新しい世界に飛び込み、今度こそ解放されたような気持ちでいた。


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