真夜中の出来事

 悲鳴で目を覚ました。


私は飛び起き、隣に伸枝がいないことに気づく。


私は玄関に続くドアを開けた。

電気のスイッチを探る。


すぐに電気をつけることができたものの、焦りから心臓がドクドクいっているのがわかる。


伸枝はトイレの前にぺたりと座り込んでいた。

顔面蒼白でガタガタと震えている。


その目はトイレ正面の3畳の部屋に向けられていた。

その部屋の引き戸は隙間なくピタリと閉まっている。


どうしたのかと聞いても首を横に振るだけで話は出来そうもない。


何とか立ち上がらせようにも腰が抜けたように動けずにいる。


私は伸枝の背中を擦り、彼女が落ち着くのを待った。


ようやく立ち上がることができた伸枝の肩を支え居間に戻る。


冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、持ち手のついたマグカップに注いで伸枝に手渡した。


伸枝はゆっくりと、しかし必至にそれを飲み干すと、ようやく大きなため息をついた。


大丈夫かと訪ねると、まだ震える声で彼女は答えた。


「ごめん、寝ぼけてたみたい。」


私はそんなはずないと思ったが、それ以上追及しなかった。


翌朝、伸枝は元気を取り戻していた。

何事もなかったかのように振る舞っている。


しかし伸枝がこのアパートに来ることは2度とないだろうと思った。


伸枝は「またね。」と言って、父親が運転する車に乗って帰って行った。


私はアパートの自分の部屋と隣の部屋を見つめた。


背中に視線を感じ振り返ると、林の砂利道が見えた。


しかし、そこには誰もいなかった。



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