林の中の道
まゆ子と伸枝はアパートから続く小路を国道に向かって真っ直ぐ歩いていた。
「なんか風がぬるいね、、、。」
伸枝が眉間に皺を寄せて言った。
「生ぬるい風ってやつだ。」
まゆ子が言うと「怖い言い方しないでよー!」と伸枝は怯えて見せた。
「あはは、大丈夫だよ!伸枝は怖がりだなあ。」
「もう、やめてよー。」
伸枝は素直なリアクションをするところが可愛いとまゆ子は思う。
私もあんな親元に生まれなければ、伸枝みたいな子になれただろうか、、、。
「あっ。」
伸枝が不意に声を出した。
「ん?」
「あれかな、まゆ子のおばあちゃんが言ってた林の道。」
国道に抜ける300m程手前の脇道は確かに林の砂利道へと続いていた。
「別に大した危ない道でもなさそうだね。」
まゆ子が言うと伸枝が身震いしながら言った。
「ここの事かはわからないんだけど、怖い噂聞いちゃって、、、。」
伸枝は口ごもってしまった。
「え?通り魔とか?」
実はまゆ子はその噂を知っていた。
しかし、とぼけて見せた。
伸枝は黙っている。
まゆ子は明るく言った。
「大丈夫だよ!おばあちゃんに言われた通り、この道は通らないよ!」
そういうと、ようやく伸枝は安堵したように言った。
「うん、気を付けてね。」
国道に出ると、とたんに場の雰囲気が変わった。
地方都市とはいえ、たくさんの電飾で彩られたテナントが明るく2人を出迎えた。
伸枝は「わあっ!」と嬉しそうな声をあげたがまゆ子は後方の、あの林の砂利道を意識していた。
恐怖ではない。
私が描く妄想の舞台にぴったりだった。
あの林の砂利道を進むと、道はやがて2つに別れる。
左がショッピングタウンへ抜ける道、右は山へと続く道だ。
隠すにはうってつけの山へと続く道。
山の麓に古い民家が1件建っているが、あとは街頭と電信柱だけが等間隔に立っているだけだ。
まゆ子の中をゾクゾクとした興奮が駆け抜けていった。
しかし、私は本当に『そんな事』をしたいのだろうか。
それを果たしたら満たされるのだろうか。
生ぬるい風が頬を撫で付ける。
おそらく気休めにもなりはしないだろう。
あの男がこの世から消えたところで母が生き返るわけではないのだから。
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