第42話 宴も中盤

 テイマーやサモナーといえば、本来は敵である魔物などを仲間にすることができる少々変わり種の職業といえるだろう。

 元の世界のゲームでは、戦士や魔法使いといった定番の職業に飽きたプレイヤーの新たな受け皿として、魔物を仲間にするという事にロマンを感じる人や、妻のような可愛いものが好きな人を中心に人気の職となっていた、という話も聞く。


「領主様、動物や魔物を懐かせやすくしたり飼いやすくしたりするような技能はないのでしょうか?」

「うん?いや、武器や魔法の扱いのように体系立ったものは知らないな。ただ、牧場などで常日頃から動物などに接している者ならば、経験則的にそうしたものを持っていたとしてもおかしくはないのかもしれない。しかし、それ以前に動物などに好かれやすい体質だとか性格というものがあるのではないか?」


 先天的な資質の部分が大きいが、後天的に獲得することもできなくはない、というところか……。


「唐突にどうしたのだ?」

「ヒュートは私がピッピヨちゃんたちを躾けたんじゃないかって考えているみたい」

「アリシア殿が?」


 躾けたというよりは友達兼保護者として認知されたのではないだろうか。俺の方はそのおこぼれとコケコを回復させたことで「信用してもいいやつ」くらいに思われているような気がする。

 更に村の子どもたちは……、姿が違うけれど仲間だと思っていそうだ。

 そうしたことを判断できるだけの知能の増加が、テイム関係の能力で底上げされているのではないか、というのが俺の持論である。


「ふうむ……。やはり相手は魔物、飼うとなるとそれなりの力が必要になりそうだな。残念だが大規模なマヨネーズ生産の即時導入は難しいというところか」


 これから算盤の本格展開を控えているが、いずれ頭打ちになった時のことを見据えているのか。確かに消費すればなくなってしまうマヨネーズのような物の方が、継続的には売り易いのかもしれない。

 領主の視線の先ではマヨネーズを巡って、仁義なき戦いが繰り広げられていたのだった。

 ……いや、にらめっこ勝負だと普段から村長宅のガラス窓で変顔を作り出している子どもたちに勝ち目はないと思うのだが。


「卵は栄養価の高い食べ物なので、食糧事情改善のためにも村でもコケコを飼うことができないか挑戦してみる予定です」

「子どもたちもピッピヨちゃんたちの世話を率先してやってくれているし、時間をかけて信頼関係さえ築くことができれば案外上手くいくんじゃないかしら」


 そうなれば子どもたちが将来、村の外に出て仕事に就くことが容易になるかもしれない。

 本格的に進めてみるべきか、一度村長たちと話を詰めておく必要がありそうだ。


「こちらとしても益は大きいから支援は惜しみませんぞ。とはいえ、ある程度手加減してもらいたいですがね」


 元々協力的ではあったが、領主にここまで言わせるとは……。マヨネーズ恐るべし。


「それじゃあ、ピッピヨちゃんたちの餌をお願いしたいわね。それと本格的な監視体制も構築して欲しいかな」

「今回の一件で『ドラゴンが落ちてきた森』として耳目を集めることになるだろうと推測できましたので、元より監視は行う予定でいました。そしてこれからは派遣された兵への食糧等の配送も必要となります。それに紛れ込ませる形でコケコ用の飼料をお渡しすることができるでしょう」


 有名になってしまうのは心配だが、兵が常駐してくれるようになるのはありがたい。時々少量のマヨネーズを差し入れておけば色々と協力してもらえそうだ。


「領主様、果実酢と塩と油も増やしてもらえないでしょうか?」

「マヨネーズ作りのためだな。もちろん協力しよう」


 即答だった。やはりマヨネーズ恐るべし!


「その代わりと言っては何なのだが……」

「はい。マヨネーズを作ってお送りします。しかし、現状卵は日に一個しか手に入りません。領主様が個人で楽しむ分をお送りするのが精一杯となると考えています」

「それは仕方がないだろうな。その代わり部下たちには……」

「監視任務に訪れた際に少しずつお渡ししますよ」

「すまないが頼む。……だがその特典は秘密にしていた方が良さそうだな。教えると全員が手を挙げるだろうから」

「ふふふ。さっきのあの騒ぎならあり得そうね」


 妻が笑いながら死屍累々となった一角を指さす。伸びているのは全員大人か。

 にらめっこ合戦は子ども連合の勝利に終わったようで、今は戦利品を掲げて広場を走り回っている。


 ……いかん、オチが見えてしまったぞ。


「アリシア、転んでマヨネーズをダメにする前にあの子たちを止めてきてくれ」

「あのはしゃぎようならやってしまいそうね。分かったわ。子どもたちの事は任せて」


 そして妻がある程度近付いた所で俺の嫌な予感は的中することになる。先頭の子どもが躓き、マヨネーズの入った小さな壺が宙を舞った。


「ああああああーーーーーーー!!!!!?」


 大勢の叫び声が響き渡る中、


「はい、確保」


 妻が見事にキャッチし、今度は盛大な安堵のため息が発生したのだった。

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