第11話 マヨネーズ騒動 2
「ほほう!これは美味い!」
「うおっ!?なんだこりゃあ!?」
「なかなかいけるねえ」
「おかわりおかわり!」
マヨネーズの試作品ができてから一廻り後の『月の日』、妻と俺は大量のマヨネーズを持って村を訪れていた。
マヨネーズのお披露目会をするためである。
さすがにつけるための食材までは手が回らなかったので、野菜やハムなどを各自で持参してもらっていたが。
最初は恐る恐る見ていた村の人たちだったが、率先して村長が食べた――実は既に昨日試食をしてもらっており、サクラになってもらった――後は我先にとマヨネーズへと群がっていた。
そして、冒頭のあの言葉へと繋がる。
毎日コケコが生む卵の大部分――具体的には卵焼き一巻き分を除く全て――をマヨネーズ用に当てていたから不足することはないだろう。
毎日ひたすらボウルをかき混ぜていた苦労も、村人たちの驚きと喜びの声の前に霧散していく。腹立たしいことに腕の怠さは直後に再集結してきていたが。
ちなみに残っている大量の卵白は、妻と村の子どもたちの手によってメレンゲクッキーへと変貌している最中である。
あちらの方も元の世界の電動泡立て器があるならともかく、手でかき混ぜるとなるとかなりの苦行だ。
おうおう、力自慢の子どもがひいひい言っているな。完成品を食べさせていなかったら、とっくに音を上げていたところだろう。
砂糖が希少品なので微かな甘味程度にしかならなかったが、それでも子どもたちには十分喜んでもらえたようだ。
口に入れた途端溶けていく不思議な食感とも相まって、とても楽しそうにしていた。
さて、どうして俺たちがこんなことをしているのかというと、村の人たちにコケコとその卵の有用性を伝え、最終的には村の事業として養コケコを始めてみないかと勧めるためだ。
と、まあこれも本当のところなのだが、第一の目的は少し異なる。
事の起こりは初めてマヨネーズを作った翌日の『太陽の日』の朝に遡る。
どうにも部屋の中が騒がしいので妻と一緒にコケコたちの部屋を覗きに行ったら、増えていた。
何がって?
もちろんピッピヨだ。温めていた残りの卵が孵化していたのだ。
妻、狂喜乱舞。
その日の朝の稽古はまるで稽古にならなかった。ピッピヨが増えたことで妻の気分が高揚してしまい、全く手加減ができなかったのだ。
そんな状態で俺が相手になるはずもなく、攻撃を仕掛けては吹っ飛ばされ、攻撃を受けては吹っ飛ばされることの繰り返しだった。
結局五回飛ばされた時点で俺から泣きを入れて、何とか中止してもらうことができたのだった。
言っておくが俺が弱過ぎるのではなく妻が強過ぎるだけである。……そのはずだ。
それはともかく、村の仕事を終えて家に帰って来てから緊急の家族会議が始まった。
議題はもちろん『コケコたちの今後について』だ。
そしてすっかりピッピヨたちに情が移ってしまった妻としては「このまま家で世話をし続けていきたい」と言ってきた。
「家で飼うことについては俺も賛成だ。いつまでになるかは分からないが、コケコからは卵を貰えているしな」
そう、ピッピヨの孵化で忘れそうになっていたが、本日もまたコケコは無精卵を産んでいたのだ。卵料理にマヨネーズにと、できればこれからもコケコたちとは良い関係でいたいと思う。
しかし、いくつかの懸念も存在していた。
「まず何と言ってもコケコは魔物だ。今は大人しいが、急に暴れ出すようなこともあるかもしれない」
例えば繁殖期などは動物でも
野生ではあり得ない環境にストレスを感じ、それを発散しようと暴れるということがないとは限らないのだ。
「コケコちゃんもピッピヨちゃんたちも賢そうだから、普段から頻繁にお話をしていれば何とかなると思うわ」
何とも楽観的な返事だったが、彼女の言い分も分からなくはない。コケコに限らずピッピヨたちですら俺たちが言う事を理解している節が頻繁に見受けられるからだ。
だが、本当にそうなのだろうか?
「アリシアは調教とか服従とかを習ったことはないのか?」
この妻のことだからいつの間にかテイマー的な能力を発揮していて、その影響によってコケコたちが賢く、また聞き分けが良くなっているという可能性も捨てきれない。
そういえば俺も稽古や訓練の時にはやる気を出せるように上手く誘導されていることが多いような……?
「え?さすがにそんな変わった技能の勉強をしたことはないわ」
と言っているが油断ならない。
「だけど、どこかで魔物使いと出会ったとか、そういう覚えはないかい?」
「うーん……」
考え込む妻。さすがに今回は俺の気にし過ぎだったのだろうか?
「ああ!そういえば、南の大陸のどこかで毛を取るための魔物を飼い慣らしている国はあったわね。国の政策として大量に飼っているんだって言っていたわ。あの子たちもふわふわのモコモコで可愛いかったなあ……。あ、だけど毛を刈り取ってしまうとビックリするくらい細いの!寒いのかそれとも恥ずかしいのか、プルプル震えていて、ちょっと申し訳なく思っちゃった。それでそれでね……」
おうふ。妻の可愛い魔物語りが始まってしまった。
こうなると長いのだよな。まあ、目をキラキラさせながら時折身振りまで加えて話してくれる妻の姿は、とてつもなく愛らしいので俺も嫌いではないんだが。
いやむしろ大好物かもしれない。
うちの妻最高!アリシア最高!
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