第四話 秋田までなまはげをみにいってっきた。
私はよく、旅行のツアーに一人で参加する。ツアーにまざっていくと気が楽だ。行程が決まっているため、自発的にならずに受け身でいられる。自分で考えるのは、集合場所と解散場所から自宅への交通手段だけだ。
寒さ際立つ2月のことだ。
私は秋田のなまはげのお祭りのツアーにまじり、なまはげをみてきた。
東京駅から岩手の一ノ関駅まで新幹線で約二時間。岩手の中尊寺が有名なとこだ。一ノ関に降りたときは、雪まじりの雨がぱらつき、関東と東北の違いがわかるくらいの温度差だ。私は顔半分をマフラーに埋めツアーの添
乗員のあとを歩いていた。添乗員は会社の
旗を掲げ誘導する。
「こちらになりますーー。」
にこやかな顔で肥った体型の添乗員をみてると、どこかしら凍てつく寒さも緩和させてくれる。
ツアーの参加者は様々だ。家族づれ、恋人どうし、友人どうし、私のような一人旅。みんなそれぞれが、独自の世界観で旅行を楽しんでるようだ。
一ノ関駅からはバスで移動だ。私たちは新幹線からおり、駅を出ると、バスが待ちかまえ、寒さから逃げるように、みんなバスに小走りに飛び乗った。バスはそれぞれが座る場所が決まっており混雑することなくスムーズに席が埋まった。
私の席は、前から二番目の窓際だ。
「隣よろしいですか?」
軽く会釈し、隣の椅子に一時的においておいた私の荷物をどけた。
「あっ。すいません。どうぞどうぞ。」
60歳以上の風貌で、私と同じ一人できているようだ。
男は上着を脱ぎ、根を張るように、どっしりと椅子に座り、暖かい缶コーヒーを開けた。
一気に息をはき、缶コーヒーをすすった。
「やっぱ、東北は関東よりかなり寒いですね。」
男は私にいった。
「そうですよね。私も、かなり防寒してきました。」
「祭りをやる秋田の男鹿半島は、もっと寒いみたいですよ。」
「ですよね。日本海沿いですからね。」
そしてバスは秋田の男鹿半島にむかい発信した。
車窓からみえる景色は、出発して30分もたたずに雪景色だ。
広大な土地の上に敷かれた雪の絨毯。遠くに見える真っ白い山々は色を塗る前のキャンパスのままのようだ。雪の下の広大な土地は、きっと畑か田んぼだろう。
バスは、更に雪の深い山々のほうに突き進む。
なまはげ柴灯祭り。
一年に一度行うお祭りだ。私は以前から、一度は秋田のなまはげをみてみたいと思っていた。それがもう間近にきていると思うと心が踊っていた。
「すごい。雪ですね。」
隣の席の男が言った。
「ですよね。」
「お兄さん何歳くらい?俺の息子と同じくらいと思って。」
「いえいえ。こうみえて結構いってます。きっと息子さんのがお若いですよ。」
「俺の息子が生きてたら、お兄さんと同じくらいかと思って。」
男の事情を察知した私は言葉につまり、なにを話していいのか、どんな言葉をつかえばいいのか、わからず黙ってしまった。
「一度なまはげみてみたいと思って。息子も、嫁も先立たれて、一人で旅行ですよ。」
男は割りきった人生を悟るかのように、苦笑いしながら話した。
「私は、独身で一緒に旅行するような人もいないので孤独に一人旅です。」
私も彼に笑顔で答えた。
バスの外は、吹雪になっていた。
男鹿半島からみえる日本海は、演歌の石川さゆりの歌が流れてきそうな淋しそうな波の音。私と隣の席の男は無口で車窓にうつる日本海をみていた。
なまはげ柴灯祭りの会場である男鹿真山神社は、男鹿半島でも山のほうにあり、険しい道を大型バスで登るのは用意なことではなさそうだ。しかも雪。
スタットレスタイヤの実力を100%発揮できる道が続き、なまはげにたどり着くまでの険しい道のりは、私にとっては、天竺までの険しい道のりのように感じた。
会場の真山神社にはついた頃は、もう真っ暗になっており、所々にある提灯が道を照らし、暗闇のなか、空からふってくるかすかな雪が神秘的なムードをかもしだしていた。
雪道のさきには、なまはげ館がある。生のなまはげをみる前に、なまはげに対する予備知識を教えてくれ、より深く祭りに接することができる。
900年以上前から毎年、真山神社で行われている神事「柴灯祭(さいとうさい)」と、民俗行事「なまはげ」を組み合わせた冬の観光行事で、真山神社境内に焚き上げられた柴灯火のもとで繰り広げられる勇壮で迫力あるナマハゲの乱舞は見る人を魅了するとの事だ。
ナマハゲとは、仮面をかぶり、藁の衣装を身につけ、右手には出刃包丁、左には桶をもち、子供達を驚かす来訪神という神様。
手には出刃包丁、逃げまわる子供達を追い回す。立派な銃刀法違反の上、無差別殺人のように思えるのだが。
しかし物事には、必ず意味があるように、ナマハゲのこの行為にも、ありがたい意味がある。
なまはげ館をでると、真山神社の本殿に続く石段があり、それを登りきると本殿があり、その横が、なまはげが乱舞しながら練り歩く会場になっている。
境内の中心に焚きあげられた炎は、温かく、お祭りの象徴のように暗闇の中、光輝き来訪神のくるのを待っているかのようだった。
山の上から松明を掲げ、大きく足をあげ下りてくる行列がみえた。
鬼の形相のような仮面をかぶり、四股を踏むような独特の歩き方。なまはげだ。
なまはげが大声をだしながら、暴れながら下りてくる。
「泣く子はいねがー。泣く子はいねがー。おーおーーー。」
境内の炎の周りをなまはげが練り歩く。
小雪がちらつく中、なまはげが舞う。
鬼の顔が恐ろしく、人間のもっている醜い一面にも見えた。
次から次へとなまはげ達は練り歩く、子供達は泣き叫び、親たちは熱い抱擁で子供に愛情をそそいでいる。
無垢な子供に、これから味わう人間の醜い一面を教えているようだ。
子供のいない私は実感した。
私はなまはげ以上に親が子供を思う様をみに来たのだと。
きっとバスの中で一緒だった男も、またそうだったと私は思う。
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