第三話  泉岳寺にいってみた。

私の叔父は亡くなって15年以上はたっただろう。

叔父は戦争を経験し、食料不足の日本で畑を耕し、私の母を育てた立派な人だ。

若い頃は予科練習生として兵士養成学校で学び、戦地におもむき日本のために戦った。

叔父は、嫌いな物は食べないという好き嫌いの多い幼い私をみて、よくはなしていた。

「戦争中、戦地ではヘビ、カエルなど、なんでも食べたぞ。」

それは、叔父にとって、戦時中の苦労というより、一兵士としての誇りのように、今の私は感じる。

その叔父が、生前よくいっていたことがある。

「体が動くうちに、泉岳寺いってみてーんだよな。赤穂浪士47人の墓みてぇーんだよなぁー。」


国のために戦った祖父は、主君のために死んでいった侍に、共感した部分があったのだろう。


泉岳寺は、都内の中心ちかくにある曹洞宗の歴史のあるお寺だ。泉岳寺駅という駅名になってしまうようなお寺。

私は浅草から都営浅草線にのり、泉岳寺駅を目指した。地下を通る列車は、永遠の眠りについている赤穂浪士47人の下をくぐって走っていると思うと、なんと罰当たりな列車だと。そう思うと、人の屍の上に人類の文明は確立しているというのは過言ではなさそうだ。


浅草駅から11駅。約20分。

ドリルのように突き進む地下鉄は泉岳寺駅についた。

駅から泉岳寺までは、右に少しあるくだけだ。

泉岳寺は、言わずと知れた『忠臣蔵』の赤穂浪士47人の墓があることで知られ、絶え間なくくる人で、常に線香の煙で覆われてるようなとこだ。

300年ちかくたっている昔話だが、義を貫いた47人の志士の話には、人々に大和魂を強く感じさせたように思う。

6月の風は、じめじめと感じる肌に、冷たさを感じた。

忠臣蔵の知名度と匹敵するくらいの歴史を感じさせる門は、柱一本一本が黒く太く、どんなことがあったも倒れない力強さをだしている。


『おーーー。』

それは、いきなり視界にはいった大石内蔵助の銅像だ。

存在すら、わからなかった私の視界に現れた大石内蔵助は山のように高く感じた。

『でけーーー。おっかねーーー。』


銅像にびびった私は小走りに、泉岳寺のなかにはいった。 

山門から本堂への敷地は広く、体を回転させると全体がみまわせるようになっており、360度どこに視界をおいても、素晴らしい景色で私は首を回転させながら一望していた。

そこの端から本堂前の敷地をさけるような道がある、そこはなめらかな坂になっており、左手には赤穂浪士の記念館らしきところがある。

そこを登り上がると、上には赤穂浪士の47人の墓がある。そここそが、忠臣蔵の聖地である。

私は線香を買う気はなかったものの、線香を売り場で、パンフを手にしようとして手を伸ばしたら、「100円になります。」といわれたので、100円を払い、ひとまとめになった図太い線香を手に取った。


私は線香の香りは好きだ。


火をつけた線香は一瞬黒い煙が立ち上がり、じょじょに汚れのない白い煙にかわっていく。その立ち上がる香りは、私を俗世界からいにしえの聖なる世界に導いてくれるような気持ちにさせてくれる。

私は火のついた線香をもちながら、一つ一つ墓をまわった。義士達の墓は皆同じ大きさで、言われ通り行き交う人々の線香の煙が絶えないとこだった。47人の墓は仲良く規則正しく並んでおり、生前の血生臭いことが信じられないくらいに、静かで光が差し込み神々しさでいっぱいだった。

私は47人すべての墓に、線香をあげることをこころみるものの、手にしてる線香の量と墓の数の割り当てがうまくいかない。

線香が足りない。

ちと配分を間違えてしまった。

差をつけてはいけないと思い私は、あげられなかった義士達に手を合わせ深く一礼した。

語り継がれる大和魂に。


私の叔父もまた、ここにいたら一つ一つの墓に手を合わせ深く一礼していると思う。

日本人の誇りをたたえながら。 


そして私は幼い頃から苦手な魚を、帰り際に買っていき、家で焼いて食べようかと。

嫌いな食べ物を食べてみようという気持ちになった。

好き嫌いのなかった叔父のように。





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