第4話『ダブルドリブル』

「タイリクさん」


突然背後から声を掛けられ、恐怖から耳が大きく動いてしまった。


「なっ...、なんだ君か...」


先日から清掃員として手伝いに来てるブタだった。


「一体何の用...?」


「アミメキリンさん、寂しがってましたよ。

いつも1人置いて何処か出掛けてるみたいじゃないですか」


「あぁ...」


私は息を軽く吐いた。


「私も私で個人的な用事が多いんだよ。

彼女には申し訳ないと思ってるけどね」


「そうですか。

流石はきょうしゅうイチの漫画家ですね」


「...」


「物書きなら、このお話は知ってますよね。

3匹のこぶたっていうお話を」


唐突にそんな話を振った。

一応...、小耳に挟んだ程度だが。


「...し、知ってるよ」


「じゃあ、充分気を付けてくださいね。

ブタはオオカミに勝ってますから。

お時間取らせてすみませんでした」


「おい、それって...」


意味がわからなかった。

確認しようと思ったが、彼女の姿は無かったが

何か不穏な物を感じた。


自らの行いで自らが疑心暗鬼に陥る。

ブタはアミメキリンの事を私に教えた。

それはつまり、キリンの方が私に気があるという事ではないか?

アイツが何をするか全く検討がつかない。

もしかしたら、私の大切な人を奪うかもしれない。


IFの不安がどんどん大きくなっていく。


仕方がない。これは因果応報だ。

私はどうするべきなんだろう。

アミメキリンを無視して、これ以上は博士とも上手くやれるわけがない。


私自身の問題だ。私が何とかしなければ。




一つだけ、一つだけ手段があった。

諸刃の剣を使う時が来たようだ。






「はぁ...」


今日も1日暗い天気だった。

最近、あまり太陽の光を見ない気がする。

私が太陽の光を見ようとしないのかもしれない。


私の気分は曇り空。

今日も、スッキリとせずに1日が終わろうとする。


先生は午前中に一度外に出た後、すぐ戻って漫画を休みなく書き続けた。

以前は、私とのお喋りで1日が過ぎてしまうこともあったのに。


ペンを置く音が聞こえた。

彼女は両腕を天に向かって伸ばした。


軽く息を吐くと、ベッドで座っていた自分の隣に彼女は座った。


おもむろに私の肩に腕を回して来たので驚いた。


「ごめんね、ブタから聞いたよ。

寂しい思いさせてすまなかったね」


久しぶりに先生の優しい声を聞いた気がする。


「ちょっと創作にのめり込み過ぎてたよ」


私の目の色を伺っているのだろうか。


「近頃出掛けてたのはインスピレーションを蓄える為だったんですか?」


私が尋ねると“ああ”、と頷いた。


「君をないがしろにしてしまったこと、許してほしい」


そう言うと“先生”は私を優しく、抱擁した。

自然と、涙が込み上げた。


嬉しさと懐かしさ。

そして、何よりも大きいのは安心感。


「...先生」


「...アミメ。泣くんじゃないよ。

私は君の笑った表情カオが好きなんだから」












その様子を垣間見ている者がいた。


「あんなに大胆にキスなんてしちゃって...

やっぱり大好きなんですねぇ...」


腕を組み、壁に寄りかかる。


「ですが、

赤ずきん、七匹の小ヤギ、三匹のこぶた...

今までオオカミが幸せになるお話なんてあったでしょうか?」


ポケットから、しわくちゃになった紙を取り出した。とあるフレンズの線画だった。


「...ふふっ、面白い事になって来ましたね。早くこのロッジのを落としたいです」


ブタはほくそ笑んだ。

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