第5話『恋のキューピッド』
最近天気の悪い日が続いている。
そういう天気の日に限って、博士は私に留守番を頼み、どこかへ行ってしまう。
恐らく、タイリクオオカミと密会しているのかもしれない。
一度はこっそり後を付けて確かめると言うことを考えたりもしたが、私の博士に対する愛情が不確定な以上、それは博士と私の信用を自ら破壊しかねない行為である事は間違いない。
あくまで、タイリクオオカミとの密会というのは私の憶測でしかない。ハッキリとした証拠がないのだ。仮に相手がタイリクだとして。
私は博士を友人、もしくは、ビジネスパートナーとして扱っていたなら、2人が親しくなろうが関係ない。
しかし、心から愛するべき存在であったとしたら獲物の横取りを恨む野生心が暴走し、最悪を招く恐れもある。
私はどうすればいいんだろう。
思い悩めば悩むほど、自分の気持ちがもっとよくわからなくなってしまう。
「助手...」
「すみません、ちょっと出掛けてきます」
申し訳ないが今は博士の顔を見ていられない。
私は一人になりたくて、森の方へ飛び立った。
最近、助手は浮かない顔ばかり浮かべる。
それが私がタイリクと仲良くし始めた頃からなのはわかっている。
一種の罪悪感はあるが...。
たかが友人としか私は思っていない。
その範疇だ。
偽りなんかじゃない、冷酷にも、私が導き出した本心だ。
助手の気持ちは助手にしか整理付けられない。
私はただ、彼女を見捨てる訳じゃない。
全うな正論を述べているだけだと思っている。
助手が去ってしまったので、図書館はより一層静かになった。
タイリクとは雨の日に会おうと約束している。
晴れている今日は来ない。
机の引き出しから封筒を取り出す。
中には彼女が書いた原稿が入っている。
私はそれを読み始めた。
彼女の声を脳内再生しながら、読む漫画は私にとって幸せだった。台詞が無くても、勝手に読めるのだ。
ゆっくり読んでいると。
「ふーん、そんなに面白いんだ」
「うわあっ!?」
慌てて原稿を隠した。
「そんな隠さなくてもいいのに~」
後ろにいつの間にか立っていたのはフェネックであった。
「
「お、音もなく後ろに立たないでくださいよ...、失敬な」
彼女を睨む。
「もー、悪かったからさー。で、教えてよー。あれタイリクオオカミの漫画でしょー?
なんでニヤニヤしながら見てたのさ」
「そんな顔してないです!」
語気を強めて言った。
「幸せそうだったよぉ~?
怖い漫画なのにねぇ...」
「なんだっていいでしょう...」
「隠したって無駄だよ」
彼女は向かいの席に座り、前のめりに顔を突き出した。
「はかせー、それは恋だよー。
タイリクオオカミに恋してるねぇ~。ふぅ~」
「じょ、冗談はよしてください...」
彼女に関わられると厄介だ。
第三者を巻き込みたくない。
「恥ずかしがる事じゃないさ。
私だって、アライさんに恋してるからさ」
「お前の恋愛事情なんて聞いてないのです。
というかその、アライグマが一緒に居ないじゃないですか」
「アライさんには紅茶を貰いに行ってもらってるからねー。恋の形は人それぞれさ。
ところでぇー...、博士はタイリクの何処が好きなの?ねえねえ、恋愛相談してよぉ」
「...しつこいですよ」
迷惑そうな顔を見せた。
「はぁーあ...。教えたくないのかー...。
折角私が恋のキューピッドになってあげようと思ったのに」
「余計なお世話です。せいぜいアライグマと
追いかけっこでもしてればいいのです」
腕を組んで高圧的に言い返してやった。
「でもさー...」
「...?」
「助手は大丈夫かなー?ずっと博士と一緒にやってきたんでしょ?博士がタイリクのこと好きだったら、焼きもち焼いちゃうんじゃない?」
グッと堪えるように唇を噛んだ。
そうだ、彼女の言うとおりだ。
好きじゃないただの友人としても、
2人でなければこの図書館はやっていけない。
だから、私は彼女がショックを受けるのを避けるために、密かに出会う。
大胆に言っても良い。しかし、リスクが大きすぎる。
私と彼女の関係を受け入れるも、受け入れないも、助手次第なのだ。
「ずっと黙ってる様子を見るに、
助手には好きなこと言ってないのかー」
「...」
「早めに打ち明けた方がいいと思うなぁー」
恋の
「フェネックー!!」
アライグマの甲高い声が聞こえた。
「ま、私からの忠告ってことで」
そう言って立ち去った。
彼女がキューピッドというよりかは、私にはただの厄介な物でしかない。
彼女がどう言おうが、助手と私の関係をどうこうするのも、私の勝手だ。
私は意地でも隠し通すと決めた。
やはりその方がお互いのためだ。
助手が私と彼女の関係に口を出さない限り、
私は嘘を付き続ける。
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